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家に帰り着くと靖之は着替えもせずにベッドに倒れ込んだ。疲労と倦怠感が席巻して、どうしても抗えない。瞼を閉じると、音もなく睡魔に引き込まれた。
『ヤス……』
神はベッドに背中を預けるようにして床に座り、まだ少しあどけない寝顔を見つめた。そっと手を伸ばして頭を撫ぜる。細い髪がサラサラと指の間を抜けた。
“どうして守ってくれないの?”
『…………』
髪を梳く指がピタリと止まった。触れれば壊れてしまいそうなあの引きつった表情を思い返し、神は痛むように目を細めた。
自分は全能ではない。
それはよくわかっている。
でも……
『……痛かっただろうな』
怖かっただろう。
生まれた時からずっと見てきた。目の前で眠るこの子はもはや自分の子供同然だ。
泣かないように。
怪我をしないように。
いつも幸せであるように。
そう願うのに。
『……難しいな』
守ってやれないことが、どんなにツラいことか。守りきれず何度自分の非力さを嘆いたことか。
こんな子供の一人も満足に守れやしないのに、神だなんておこがましい。
神は自嘲めいた笑みを口元に貼り付け、靖之の形のよい頭を愛しげに撫で続けた。
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