1

1/1
前へ
/15ページ
次へ

1

 その日、世界は暗黒の抱擁を受け入れざるを得なかった。そして闇と共に現れ猛威を振るった魔王は瞬く間に世界をその手中へと治め始める。だが絶望に心まで闇へ染まりつつある人類へ、一筋の光が差し込む。  聖剣を手にした勇敢なる者――勇者。仲間を集め勇者はついに魔王へと世界の命運を賭けた戦いを挑む。  しかしその余りにも強大な力の前に、勇者とその仲間は善戦もむなしく魔王の前に倒れてしまった。そして魔王はついに世界を我が物としたのだ。  あれから数百年。世界の王として君臨し続けた魔王だったが、そんな彼へ終止符を打つ存在が現れる。 「魔王様。時が来てしまいました」  超新星爆発――恒星はその寿命を終え、全てを呑み込もうと今正に自爆の一途を辿っていた。  ***  雨上がり軒先から滴下する雨粒のように、切先から滴る鮮血。差し込む月灯りに照らされ、一定のリズムで地面の溜まりを広げていく。その大きな、大きな血溜まりの中には人ならざる者の生首が今も尚、ドロリとした血を吐き出し続けていた。同様に至る所で転がるただの巨大な肉塊と化した体。その部屋は床を染め上げんばかりの血液とそこに浸かる無数の首を切り離された体で埋め尽くされていた。  そんな屍山血河の光景の中で選ばれし者のように血の滴る刀を片手に立つ人影。人型をしていたがその姿は闇をその身に宿すかの如く禍々しく、魑魅魍魎でさえ平伏してしまいそうなほどだった。 「我が魂がその強大なお力の一部と慣れる事――誉れに思います。魔王様。どうか、ご無事で」  心の底から溢れ出す忠誠を示す一人の魔族は、片膝を着きながら揺ぎ無い視線で魔王を見上げていた。その視線と交差する冷徹な眼差し。  そして沈黙の中、振り上げられた刀は血払いをしながら横一閃。魔族の首を撥ねすぐにまた新たな鮮血を浴びた。更にもう一体分、屍が増えるも最早それは誤差程度でしかない。  それは余りにも凄惨な光景だったにも関わらず、その中で刀を手に佇む魔王はまるで花と蝶――名画のように調和の取れた光景だった。暗闇と血、月影と屍。狂気と美が混じり合い、魔王はそれらの一部として佇む。静寂すらも超えた静けさの雑音が鳴り響く中、魔王は最後の血払いをし刀を囁くように鞘へ納めた。そして手元から闇に溶けるように刀が消えるとほんの数秒動きを止め、マントをたなびかせ魔王は踵を返す。  その最中、彼はそよ風よりも小さく言葉を呟いた。

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>