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終戦と愛人
「戦争が終結したと報告が入りましたっ!勝利です!」
高揚に震える声が、執務室に響く。
統括執事のバーナードが、いつになく興奮した様子で飛び込んできた。
「……あぁ、ようやく終わったんだわ」
この五年、出征した夫に代わって、公爵夫人の私——アリア・ディカルトが全てを取り仕切ってきた。皇族の血筋、帝国随一の名家、その価値を数えれば片手では足りないほどの家門、ディカルト公爵家の女主人として。
「バーナードもご苦労様。……長かったわね」
それは、同時にバーナードの功績でもある。
彼がいなければ、私は乗り切れなかっただろう。
「勿体なきお言葉、光栄に存じます。……しかしながら、それは主あっての五年でございます。奥様こそ、ご立派でございました」
◇
この戦は、我がザイツヴェルク帝国が隣国ソルテーヌを手中におさめるべく始めたもので、私の夫でディカルト公爵家当主——ルドルフ・ディカルトも騎士団を率いて出征していた。
「帝国軍よりも活躍したとのことで、皇帝陛下から直々にお褒めの言葉も賜ったようです」
「まぁ……それは大したものよ。あの口うるさい陛下が褒めるなんて、ね?」
戦地へ何度も手紙を書いたのに、一度も返事はなかった。理解には苦しむけれど、戦死の報告はないわけだから——もちろん帰ってくるわよね。
「ところで、ルドルフはいつ帰ってくるのかしら?」
「ひと月ほど先になるのではないでしょうか」
バーナードが息をのんだ気がした。何かを言い淀むような、言葉を選んでいるような——そんな様子だった。そして少しの沈黙の後、静かに口を開く。
「……奥様、申し訳ございません。……お話すべきことがございます」
「なにか困ったことになっているのね?」
彼の様子を見れば、容易に想像できる。どんな時でも言葉に詰まらない、優秀な執事だから。
「……はい。旦那様より数週間前から手紙が送られてくるようになりました。全て私宛てでございます」
会話を切る彼を見て、想像以上の問題なのだと察した。
先を続けるよう促したけれど、私はその先を本当に聞きたかったのだろうか。——それは、自分でも分からない。
「……どちらにも『奥様には内密に』とございまして……ご報告を躊躇っておりました。ですが、その指示には従えないと判断いたしました。奥様は公爵閣下の代理を、立派にお務めになったのですから」
頭を下げるバーナードから手紙を受け取ると、私は恐る恐る内容に目を通した。

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