7月
「あれ一回で世界が元通りか……」
僕は思わずため息をついた。ありがたいが、なんだか呆気ない気もする。
「でも、なんだかわかる気もするの。私もルビーの指輪を一本身につけただけで、世界が変わった気がしたもの」
「そうですね。案外世界って、そういうものかもしれないですね」
ルビーネキの言葉は妙に説得力があり、なぜか僕も納得してしまっていた。真っ暗闇でも、ほんの少し光が差したらもう真っ暗闇ではない。ほんの少しのきっかけで、世界が変わるのことがあるのはたしかだ。
「あーあ、もう私が主役の世界も終わりかあ……」
ルビーネキは車道に座り込んだ。ルビーの力は受け入れているのに、世界が元に戻ったことは受け入れがたいらしかった。
「もう車道にいちゃ駄目ですよ。いつ車が走って来てもおかしくないです」
「そうね」
僕たちは歩道の端に移動した。
「まあまあ。世界を救ったルビーネキは、今も主役ですよ」
「本当に私が救ったのかしらね。世界中で私達みたいにルビーを身に付けてる人間がぽつぽついて、それぞれ同じようなことをしたんじゃない?」
「そんな夢のないこと言わないでくださいよ。僕の視点では、世界を救ったのはルビーネキですよ」
「口が上手いわねえ」
ルビーネキはまだ浮かない顔をしていた。
「世界が元に戻るのが嫌ですか?」
日の光を取り戻した空の下で、僕は尋ねた。
「そりゃ、モノクロのままじゃ困るし、元の世界に戻った方がいいに決まってる。だけど、いざ戻ってみるといろいろと現実が襲ってくるというか。7月に世界が滅びると思って、散財しちゃって貯金ないし……」
「大丈夫ですって。散財って言ってもジュエリーですもん。金も銀もプラチナもどんどん値上がりしてますから、今年の始めに買っておくのは間違ってなかったと思う日が来ますよ」
「また明日から、いやもう今日か?仕事だし……」
「まあ、気持ちはわかります」
「ここから家に帰るだけでもうんざり……」
「そうですね……あっ、そうだ。どうせ歩くならやっぱりうちの店に行きません?ルビーフェアに来てくださいよ。仕事なんて一日ぐらい休んだって大丈夫ですって。今からスマホで休みの連絡入れましょうよ」
「もう新作のジュエリーなんて買うお金ないもん」
「そんなのいいですよ。見に来るだけでいいじゃないですか。リングの一本ぐらい、ルビーネキのお金が貯まるまで取り置きしておきますよ」
「……わかった。冷やかしになるけどいいのね?」
「いいですよ!さっ、行きましょう!」
世界がモノクロの状態のときより元気がなくなってしまったルビーエタニティネキを引き連れて、店に向かった。まあ大丈夫だ。うちの店のルビーの新作を見ればきっと息を吹き返すだろう。
7月は世界が終わる月ではなくて、ルビーフェアの月なのだから。
おわり
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