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その1
「じゃあ、みんなでよびましょうね。せえの!」
「ポ・ポ・リ・ス・くーん!!」
司会を務める交通総務課の守川巡査長の合図で、子どもたちは、ステージの奥へ向かって力一杯叫んだ。
その呼び声に応えるように、俺は、元気よく手を振りながら衝立の陰から飛び出した。
ショッピングモールの駐車場の一角に設けられた特設ステージを、何百人もの親子連れが取り囲んでいた。入り口で配っているポポリスくんの団扇を振ってくれている子もいて、俺はアイドルになったような気分だった。
俺の名は、桐山敦人。江戸原警察署捜査一課の刑事だ。
今日は、やむを得ぬ事情により、県警の人気者であるポポリスくんの着ぐるみの中の人となって、交通安全教室に参加している。
今年の交通安全イベントでは、交通総務課の難波という新人警察官が、ポポリスくん役を務めることになっていて、着ぐるみは彼の体格に合わせて調整されていた。
難波は、大学では柔道部に所属していたとかで、かなりでかくてごつい男だった。
一昨日、そんな頑丈そうな難波が、インフルエンザに感染したことがわかり、今日のイベントには出られなくなってしまった。
「交通総務課はもちろん、署内中探したけど、難波と同じ背格好の人間はおまえしかいないことがわかったんだよ。それで、どうしてもおまえに頼みたいって、交通総務課長に泣きつかれてさ――」
坪内捜査一課長にそう言われて、俺は休暇を返上して、ポポリスくんになることを承知した。実は、俺はちょっとばかり難波を羨ましく思っていたのだ。
難波は、でかくてごついのに、ポポリスくんになることで、いつのまにかみんなから可愛がられる存在になっていた。
自慢じゃないが、身長百九十センチで、大リーガー並の鍛え上げた肉体をもつ俺は、剣道四段だし、居合や柔術もそれなりの技術を身につけている。
これまでの人生で、「可愛い」と言われたことなど一度もなかった。
ポポリスくんになることで、生まれて初めて「可愛い」と言われるのかと思うと、めちゃくちゃわくわくした。それに、俺には、興奮した子どもたちが、一斉に体当たりしてきても、受け止める自信があった。
「ポポリスくん、いつものセリフをおねがいしてもいいかなあ?」
守川巡査長に甘え口調で言われて、俺は、うなずきながら胸を張った。
そして、ゆっくりと子どもたちを見回したあと、大きな声で決め台詞を叫んだ。
「ぼくのモフモフなしっぽはアンテナなのさ! どんな小さな悪だって、けっして見逃さないぞ!」
子どもたちの方へしっぽを向けて軽く揺らすと、大歓声が湧き起こった。
だが、そのとき俺は、大型トラックがこちらに向かって、ふらふらと走って来ていることに気づいた。
「みんなー、ステージから離れろー! トラックが来るぞー!」
俺の叫びを聞き、守川巡査長やほかの警察官たちが、大慌てで人々を下がらせた。
俺は、全員が待避したことを見届けて、ステージから飛び降りた。
そのとき、トラックが激しくステージに衝突し、壊れたパネルや柱が、まとまって俺の上に倒れてきた。
俺は、何とか身を守ろうとしたが、大きな衝撃を受けて、そのまま気を失ってしまった――。

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