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秘密ー奪われた恋の始まり
夜の帳が降りるころ、愛聖
は決まって同じ悪夢を見る。
白いヴェールを纏った妹 優梨愛が微笑みながら、ゆっくりと消えていく夢。
その傍らには、隼人の影。
彼の瞳だけが、現実のように鮮やかで、罪を告げるように光っていた。
――どうして、あの日
彼と出会ってしまったのだろう。
優梨愛の恋人として紹介された夜。
食卓の灯りの下、グラスを掲げた隼人の笑みが、あまりにも自然で、あまりにも残酷だった。
その瞬間から、愛聖の中の何かが
音を立てて崩れはじめた。
彼は優しかった。
妹を心から大切に想っているように見えた。
だが、ふとした瞬間――視線が、愛聖を追う。
その視線に、息が詰まる。
妹が台所に立っている間
彼は何も言わずに手を伸ばした。
テーブルの下、触れた指先が震える。
そのたった一度の触れ合いが
すべての理性を壊した。
それから、夜が訪れるたびに、彼は来る。
妹の部屋の明かりが消えたあと
そっとドアを叩く音。
開けてはいけないとわかっているのに
心が先に開いてしまう。
「……どうして来るの、もう終わりにしようって言ったのに」
「終わりにできるなら、もうここにはいない」
その声に抗えない。
唇が触れた瞬間、世界が歪む。
罪の味が、甘く溶けていく。
彼の指が髪を撫で、背中をなぞる。
何度も、何度も「好きだ」と囁かれても
愛聖の心は凍えたまま。
その言葉が、妹にも同じように向けられていることを知っているから。
だが、それでも彼を求めてしまう。
理性を越えた痛みと快楽の狭間で
彼の名を呼ぶたび優梨愛の笑顔が脳裏をかすめ
心が裂けていく。
――奪ったのか、奪われたのか。
ある日、優梨愛がふと呟いた。
「ねぇ、お姉ちゃん。最近、隼人の様子がちょっと変なの。仕事で疲れてるのかな……?」
その笑顔が、あまりにも無垢で。
愛聖はその瞬間、息を呑み
涙が零れそうになった。
隼人は、妹の隣で穏やかに頷きながら、
愛聖へと一瞬だけ目を向けた。
その一瞬が、熱く、鋭く、すべてを暴く。
優梨愛は知らない。
その目の奥で、二人が何度も
背徳の夜を重ねていることを。
「姉」と「恋人」――ふたつの顔を前に、
愛聖は壊れゆく自分を止められない。
やがて、優梨愛の結納式の前夜。
愛聖は彼に問いかけた。
「ねぇ、もし全部ばれたら、あなたはどうするの?」
「それでも……お前を選ぶ」
その言葉を信じたかった。
けれど翌朝、届いたのは
妹からのメッセージだった。
> 「お姉ちゃん、ありがとう。
隼人とちゃんと話ができたよ。
今日、彼と一緒に行くね――」
そこには、見たことのない笑顔の写真。
優梨愛の隣で、穏やかに微笑む隼人の姿があった。
その瞬間、愛聖の中で何かが静かに壊れた。
夜、部屋にひとり、彼女は鏡を見つめる。
自分の唇には、まだ彼の熱が残っていた。
「……ねぇ、隼人。愛してる。たとえこの罪で、私が地獄に堕ちても」
窓の外、遠くで風鈴が鳴る。
その音が、妹の笑い声に重なって消えていった。

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