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ムイはその日、何度目かのため息をついた。
「どうかした?」
向かいに座るルルルに見つかって、「なんでも……」とかぶりを振る。ふたりは大学のカフェテリアで休憩しているところだった。周りでは学生や教員、散歩に来た地域のひとびとが、それぞれの時間を過ごしている。
ムイの返答に、ルルルは不満げな顔をした。右のこめかみに浮く、小さな斑紋が、さっと青みを深くする。手に持っていたカホ茶のカップを置いた。
「なんでもないって、そんなことないでしょう。最近ムイはずっとそうだよ。何か悩んでいることがあるなら、わたしに教えてよ。友だちだろ?」
「うーん、その……次のレポートのこと。前回の評価が悪かったから、ちょっと心配で」
「え、そうだったの。ムイが?」
水色の瞳にまじまじと見られる。くすぐったいような、後ろめたいような気持ちになって、ムイは目をそらした。
「ルルル、ムイー!」
開放されたカフェテリアの窓越しに、級友たちが声をかけてきた。
「次のコマは空いてる? みんなで日光浴しない?」
「せっかくだから、行こうか」ルルルが言う。
「気分転換しよう。レポートのことは、また後で。相談に乗るよ」
ふたりは仲間たちに合流して店を出た。薄紫色の空がよく晴れて、気持ちのよい午後だ。少し暑いくらいの陽気に、キャンパス内の気安さで上衣を脱ぐ者もいる。陽光に温められた肌の上で、大小の斑紋がキラキラ輝いた。
中央通りを抜けると、大学図書館の前に緑の広場が広がっている。仲間たちは思い思いに散らばって、草の上に寝ころんだり、中央を流れる小川へ向かって行ったりした。
ムイとルルルは、あたりをぶらぶら歩き続けた。あちこちに植えられたミウベの木が、緑の葉むらに丸いつぼみをのぞかせている。
「もうすぐ花が咲くね」
ルルルは顔を上げた。頭頂から垂れた繊毛の向こうに、水色の瞳が見え隠れする。それを見たムイは、体の奥の方を、ぎゅっと締め付けられるような気がした。日差しがまぶしいふりをして、手びさしで顔を隠す。きっと今、おかしな表情になっているから。
最近のムイはずっとこうだ。
きっかけはよくわからない。ある日とつぜん、友だちのひとりだったルルルのことが気になって仕方なくなってしまった。

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