396人が本棚に入れています
本棚に追加
大切な人
「うーん」
あれ? ここ……どこだっけ?
何かにギュッと抱きしめられてる。
これって……
そっと顔を上げる。
「やっと起きたか……」
その口調とは反対に優しげな表情で僕を見下ろしている先輩の姿があった。
「えっ……はっ? えっ? な――っ」
「ははっ。少しは落ち着け」
裸のままギュッと抱きしめられて、先輩の鼓動が直に伝わってくる。
「昨夜のこと、ゆっくり思い出してみろ」
「さ、くや……ああ!」
――思い出に先輩が一度だけでも僕を抱いてくれたら、僕……仕事辞めるの、辞めます!!
自分がとんでもないお願いをして、ここに連れてこられたことを思い出した。
「思い出したか? 昨日のお前、気持ちよさそうに喘いでたな」
「そんなこと……っ」
――ああっ……! もっと――っ、ああっ……きもちぃ……っ!
先輩のおっきなモノでゴリゴリと奥を突かれておかしくなったように声あげたんだ……
うわぁ……っ、恥ずかしい……
「可愛かったな、瑛」
「あのっ、ごめんなさいっ! 昨日のことは忘れてください!」
「……忘れる?」
「だって、僕……」
「酔った勢いで上司を誘ったのが、カレシにバレたくないって?」
え? か、れし?
先輩は何を言っているんだろう?
「言っておくが、俺は忘れる気なんかないからな」
「えっ、でも……先輩は結婚するって……」
「俺が結婚? 誰に聞いたんだ、そんなガセネタ」
「ガセ……?」
でも確かに岬先輩のことだって言ってたのに……
「あの、H物産の社長の娘さんと会ってたって……」
「あれか。確かに会ったな」
「やっぱり……」
「うちの上層部に何度大切な人がいるから見合いはできないって伝えても一度だけ会ってくれってうるさいから、直接会って断ってきたんだ。それだけだ」
「大切な、ひと……」
すぐに結婚はしなくても大切な人はいるんだ……
じゃあ、やっぱり僕は……
「はぁーーっ。お前、どこまで鈍感なんだよ?」
「えっ? 僕?」
「いいか、よく聞いておけ。俺はお前が入社してきてからずっとお前にアプローチしてきたつもりだ。お前が一生懸命仕事を頑張ってたから、お前のことも考えて告白する時機を狙ってたんだ。そろそろかと思って、告白しようとしたら『仕事辞めます』って言われた俺の気持ち、わかるか?」
「そんな……っ」
先輩が僕に告白しようと狙ってた?
これ何? 夢?
「それなのにお前は知らない間に他に男作ってたんだな」
「はっ? えっ、他の男? 何、それ。そんなの知らないです!」
「だって、お前……あんなに後ろ解れてただろ?」
「う、しろ……? あっ…ちが――っ、それは、自分で――」
「自分で? 自分で弄ってたのか?」
恥ずかしいことを知られて一気に顔が赤くなる。
「瑛、もうここまで話したんだ。ちゃんと話せよ」
「あの、僕……先輩が好きで……でも、受け入れてもらえるって思わなかったから、それで……あの、先輩のサイズのディ、ディルド買って……それ、で慰めてて……」
「俺のサイズの? だけど、俺、お前に見せたことは……」
もちろん見たことなんてない。
「その、想像で……でも、」
「でも?」
「あの、実物は、想像より数倍おっきくて気持ちよかった、です……」
「ぐっ! ああっ、もうっ! お前、わざと煽ってるのか?」
「えっ? 煽る?」
「はぁーーっ。もう、本当お前は……どうして、こんな可愛いんだろうな」
先輩にギュッと抱きしめられると、身体の奥に覚えてる先輩の熱が、刺激が甦ってくる。
「昨夜のを思い出して勃たせてるのか?」
「だって……先輩が、抱きしめるから……」
「わかった。ちゃんと責任は取ってやるって」
強く抱きしめられ先輩との甘い時間が戻ってきた。
身体の奥をたっぷりと擦られて、水のようにサラサラとした蜜を飛ばした。
「あの、先輩……じゃあ、結婚はしないんですよね? 仕事も辞めないんですよね?」
湯船で後ろから抱きしめられながら、一番重要な質問をした。
だって、僕の仕事の活力は先輩の姿を見ることなんだから、それがなくなったら仕事もできなくなってしまう。
「まだ言ってるのか。結婚はしないよ。お前以外とはな。だが仕事は辞めるぞ」
「えっ、辞める?」
びっくりして大きな水音を立てながら先輩に身体を向ける。
「ああ、辞めるよ」
「そんな……」
そうなったら仕事の意欲も出ないのに。
「お前も一緒にな」
「えっ……僕?」
「ああ、起業したんだ。そこにお前も連れて行く」
僕も一緒に?
何、これ……どういう展開?
「言っておくが恋人にしたから連れて行くわけじゃないぞ。俺の会社にお前が必要だと思うから連れて行くんだ。来てくれるだろう?」
正直言って新しい会社は不安がないわけじゃない。
でも、先輩がいないなら辞めようと思っていた会社だ。
先輩と一緒にいられるならそっちがいい。
「はい! 僕を連れていってください!」
「お前ならそう言ってくれると思っていたよ」
「先輩……」
「瑛……俺たちはこれから新しい会社で頑張る対等な関係だ。もう先輩じゃない。俺のこと、響也と呼んでほしい」
「響也、さん……」
「さんはいらないんだが、今はそれでいい。瑛……愛してるよ」
チュッと唇を重ねられる。
ああ、僕……こんなに幸せで怖いくらいだ。

最初のコメントを投稿しよう!