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白羽の矢
1
ペダルを漕ぐ足がもつれそうになった。
背中にじんわりと汗をかき、慌てているからか呼吸もあらい。ようやく見えてきた目的地。その直前で信号につかまった。
はあ、はあ、と息がもれる。なんだよ。急いでるってのにさ。
大通りには車がビュンビュンと走り、僕の行く手をはばんでいた。
遠くのほうには山が見え、田んぼや畑が割とある。僕が住むこの町は、緑が多い田舎町だ。栄えているのは一部の大通りだけで、あとは自然にかこまれている、そんな町だった。
視線の先にあったのは、比較的大きなブックストア『やまびこ』。二階建てで、本以外にも雑貨やゲームも置いている。
そして、もちろんトレカもだ。
信号が青になり、僕はもう一度ペダルに体重をかけた。
「夏輝! おせえって!」
店の前にあった駐輪場に自転車を停めたとき、聡介が怒った口調で僕に声をかけてきた。
「ごめん」
「お前また寝坊か? 何回目だって! もうはじまってるぞ!」
「うん、ごめん」
「まったく、行くぞ」
「あ、うん」
午前十時に開店するこのお店。現在時刻は午前十時十分。聡介とは九時四十分に待ち合わせをしていたのに、大幅な遅刻だ。聡介が怒るのもむりはない。
僕はいつも、大事な場面で寝坊をする。『時間にルーズなやつは成長しない』。その言葉が胸を強く刺す。
入り口から店の中へ。一階部分にはたくさんの本棚がならび、流行りの本が置かれていた。こむずかしい経済の本だったり、直木賞作家の新作の小説だったり。
小学生の僕にとっては、漫画以外でこの店の本にふれることはめったにない。
聡介が右側にある階段をあがっていく。僕もそれにつづいた。
聡介は長袖のシャツに、ジーンズ姿。黒のナイキのスニーカーがよく似合っている。頭がよくて、運動もできて、女子にもモテるぐらいカッコいい。どうして僕なんかと仲よくしてくれるのか、ときどき疑問に思うほどだ。
聡介は振り返って、ほら早く、と僕を急かす。
彼に続いて階段をあがっていくと、子どもたちの声が耳に入ってきた。おー、という驚きの声や、すげー、といった賞賛の拍手も混ざっていたりする。
息を切らしながら二階に到着。漫画やゲームのコーナーが立ちならぶフロアの中で、一番奥の一角にその声が集中していた。
テーブル席が四つ。三つは空いている。一つの席の周りに子どもたちがあつまっていた。小学生から、中学生までだいたい二十人前後。うわさを聞きつけてみんなやってきたのだろう。

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