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一回戦が終わったのは、それからしばらくのこと。
「完敗だよ」
水上さんは、秋人くんに右手を差し出した。
「前よりも強くなってた。さすがにヤバかった」
ガッチリと握り合う手。観客席へ向かう階段の前、簡易的な柵で仕切られた選手用の通路で、二人はお互いの健闘をたたえ合っていた。僕と聡介はその様子を遠目からしか見ることができなかった。ファンの多くは、秋人くん目当てで、スマホを二人に向けている。
勝った秋人くんよりも、負けた水上さんのことが気になる。くやしいにきまってる。勝てる道筋はあったはずだ。それなのに、秋人くんはその上を行ったのだから。
「よう、お前ら」
秋人くんが僕たちを呼んだ。それでも、いつものように気軽に近寄って声をかけられない。小学生の僕らでさえも、その雰囲気は伝わっていた。
「見ててくれたんだろ? 僕は緊張してあまりおぼえてないんだけどね」
何人かの女性ファンの間をかき分けて、僕と聡介は二人のもとへ行く。
水上さんは、自分の気持ちを押し殺して、僕らに話してくれている。その心情は、痛いほど理解できた。
「水上さん……」そう言葉にするのがやっとで。
「やっぱり、秋人は強い。ほんとに強かった。絶対、決勝まで勝ちのこって、最後は優勝してくれ」
「ああ」
「……少し、風に当たってくるよ」
さみしそうに入口のほうへ歩いていく水上さん。なんだか、僕まで泣きそうになってきた。
「俺が言うのはちがうのかもしれないけど、戦いは残酷でもある。結果が必ず出るんだ。俺が勝って、あいつが負けた。ただそれだけなんだけど、そこにはものすごい重いものがある。トーナメントが発表されたとき、こうなるのかもって思った。二人で全国行きたかったけどな。俺だって、負けるわけにはいかなかったから……」
最後は声がしずんでいった。秋人くんがこんなにも落ち込んでいる姿ははじめて見る。
聡介はうつむいたまま、声も出せないでいた。
僕が秋人くんに、言わなければいけないと思った。僕も、仲間なんだから。
「……秋人くん。これで終わりじゃないでしょ? 水上さんのことはもう切りかえて。次のこと、考えなきゃ。そうでしょ?」
何度もうなずく秋人くん。

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