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エリーゼは誰にも気づかれないように生きてきた。
茶色い髪を地味な布で結び、色あせた服に身を包み、通りの片隅で小さなパン屋の手伝いをしながら暮らしていた。
笑顔を絶やさず、決して涙を見せず。それが彼女の生き方だった。
十歳のとき、母の死に泣き崩れた彼女の頬を伝った涙は、床に落ちる前に透明な結晶へと姿を変えた。
光を受けて虹色に輝くそれは、紛れもないダイヤモンドだった。
母の葬儀に集まっていた親戚たちの目の色が変わった瞬間を、エリーゼは今でも忘れない。
その夜、彼女は孤児院へ逃げ込んだ。
以来、彼女は自分の秘密を誰にも明かさず、感情を押し殺し、涙を流さないように細心の注意を払って生きてきた。
街には噂が流れた。
──「涙の魔女」と呼ばれる少女がどこかに隠れている。彼女を手に入れた者には莫大な富が約束される──
盗賊団、犯罪組織、欲に駆られた者たちが、今もなお彼女を探し続けていた。

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