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本棚に追加第一話 第一秘書
国会議事堂、参議院本会議場。
“山元 勇太郎”が壇上から降りた時、議場は静まり返っていた。
国会答弁で、力強く分かり易い言葉を使い、話し終えた山元。
それは、戦後から今日に至るまで見たことないタイプの議員と呼んで差し支えない。
彼は、国政政党“へいせい革命組”の党首。
そして今回訴えた『消費税の廃止と累進課税の強化』が、単なる経済対策ではなく、「経済力=外交力・防衛力」に繋がる安全保障戦略であると論じ、“自正党”が長年維持してきた利権構造の虚飾を剥ぎ取るべく、落ち込む日本経済の真の理由をストレートに説明をした。
“へいせい革命組”は、国会の空気を読むことを一切せず、弱小政党ながら今勢いに乗っていた。
騒然とした空気が漂う、この日の国会終了後、廊下で山元は案の定、呼び止められた。
「山元君」
呼び止めたのは、自正党の派閥の中でも最大勢力を誇る重鎮、“大泉 憲吾”。衆議院議員を10期務める、“経済複合連盟”(略して経複連)の意向を代弁する存在だ。
山元は振り返ると「ああ…大泉先生」と特に政界の重鎮だからと、驚く様子もなく返した。
「いい演説だったよ。若手らしく夢があってね」
大泉は、分厚い眼鏡の奥で薄く笑った。
山元は冷静に「夢ではありません、大泉先生。国民を救い、この国の安全を守るための現実です」と答える。
すると大泉の笑みが消えた。
「現実? 君は大きな勘違いをしている。この国の政治は、君のようなタレント上がりの絵空事で動いているわけではない。我々自正党が、経複連と共に何十年もかけて築き上げた安定の上で成り立っている」
大泉は、山元の肩に手を置いた。その手は、優しさではなく、重く冷たい圧力をかけていた。
「君は、その安定を破壊しようとしている。『出る杭は打たれる』という言葉を知っているかね? 若いうちは、もう少し協調性を持つべきだ。そうしないと…君が今持っている全てを、失うことになるぞ」
それは紛れもない脅迫だった。
その瞬間、山元と大泉の横に、影が差し込んだ。
へいせい革命組の第一秘書、“三浜 凌が、音もなく二人の間に割って入ったのだ。
彼は、山元の肩に手を乗せる大泉に何をするでもない、ただ立ってその姿を見せただけ。しかしその立ち姿には一点の隙もなかった。
三浜は、大泉に敬意を払いながらも、その言葉に一切の忖度をしない返答をした。
「大泉先生。本日は、山元代表へのご指導、誠にありがとうございます。しかしながら、“へいせい革命組”は、自正党のように企業・団体の後ろ盾を一切持たない市民政党です。あなたの言う経複連の意向は、我々には関係ございません」
三浜の口調は実に丁寧だったが、彼の鋭い眼光は、大泉の黒く濁った目を真正面から射抜いていた。
大泉は、三浜の瞳の奥に宿る、冷徹な気配に一瞬たじろいだ。
自分たちと利害関係のない第三者が、これほどの威圧感を放つことなど、利権にまみれた政治家生活の中で経験したことがなかったのだ。
大泉は肩をすくめ、山元の肩から手を離した。
「…ふん。面白い秘書を連れているな。だが、忠告はしたぞ」
大泉は吐き捨てるようにそう言い残し、立ち去った。
不快なその顔には、山元に対する殺意さえ感じた。
三浜は、大泉の背中から完全に殺気が消えるまで、山元の盾であり続けた。
山元は、そんな三浜の横顔を見つめた。
「…三浜君、ありがとう。君の眼光に、あの男は怯えたな」
「私は、山元代表の理想を守るためにいます。その理想を汚す者は、大物であれ、身を挺して守り抜きますよ」
三浜の顔が少し緩み、ふっと笑顔を見せた。
——その晩…。
“へいせい革命組”の党事務所。
夜遅くまで煌々と明かりが灯るのは、三浜が一人で残業している部屋だけだった。
彼は、山元代表の国会での演説後、党に寄せられた大量の賛否両論のメールと、自正党の圧力に対する反撃資料を準備していた。
その静寂を破って、殺気と共に見えない気配が三浜の背後に迫った。
殺し屋の男たち。
フリーの殺し屋である三人の侵入者は、物音を立てることなく室内に踏み込んでいた。
裏社会特有の空気をまとった彼らの目的は三浜だ。
“へいせい革命組”の第一秘書に徹底的な暴力を加えて脅迫する、そんな依頼を高額で引き受けていた。
依頼主は、自正党の大泉。彼から闇のルートを通じて雇われたプロフェッショナルたちだった。
三人の内の一人が、三浜の背後から頭部を狙って無音で拳を突き出す。
だが三浜は、振り返りもせずにその攻撃を紙一重でよけ、そのまま流れるような動作で椅子から立ち上がると同時にバックブローを、襲ってきた男の側頭部に喰らわせた。
「ごあっ!」
三浜の拳が横から直撃し、声を上げて倒れる男。
間髪入れず追撃のために飛び込んできたもう一人の殺し屋の蹴りを、三浜は柔らかな動きで受け流し、相手の体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、力強い正拳突きを、相手の胸部に喰らわせたた。
「ごっ!」と、鈍い音が響き、殺し屋の男は胸を抑え、後ろにヨタヨタとよろめいた。そして肺の空気を全て吐き出させられたかのように、その場に崩れ落ちた。
三浜はゆっくりと倒れた二人を見下ろした。
彼は普段の知的な表情のままだったが、その瞳には、暗闇の中でも光る獣のような闘志が宿っていた。
「やれやれ…、国政政党とはいえ金のない弱小政党故、事務所のセキュリティーが甘いのは仕方ないですが」
三浜はそう言い、結んでいたネクタイに手をかけ、ゆっくりと緩める。
「…アポなしの、夜更けの訪問は対応が手荒になりますよ。それに、私を頭だけの秘書だとナメているのではないですか?」
彼は、静かに、だが確固たる力を持つ自信に満ちた声で、自分の裏の顔を、三人の男たちに突きつけた。
「こう見えて私はフルコン系の空手の黒帯なんですよ。それに外交官職員の頃、ソレイア特殊部隊“ディスティニー・バイパーズ”で短期間とはいえ、訓練を受けた身。易々とはやられませんよ」
三浜の真の姿を目の当たりにした殺し屋たちは、わずかに驚愕に目を見開いたが、プロとしての本能が彼らをすぐに動かした。三人はそれぞれナイフを取り出し、同時に三浜に襲いかかった。
だが、三浜の動きは、彼らの想像を遥かに超えていた。
一見スラリとした体型に見えるが、その体幹は実にバランスよく強靭だった。
一人目のナイフによる刺突を掌底で軌道をずらし、その顔面にカウンターの正拳突きを喰らわす。
上からナイフを袈裟に落とそうとする二人目の男には、三浜自ら突進。身体を相手に密着させたと同時、ナイフを持つ腕を振り下ろさせないよう、相手の脇に自分の腕を差し込む形で組みついた。
そして小外掛けで足を刈ったと同時に組みつきを放すと、男は背中から勢いよく倒れた。追撃に胸部に上から靴の踵で踏みつけの一撃を加えた。
そんな三浜の背中に、ナイフを突き刺そうとする三人目の男。だが、三浜はまるで後ろに目でもあるかのように、男の腕を脇に挟み、同時に肘関節を反対方向は折り曲げた。
「ぎゃああ!」と悲鳴をあげる男の手からナイフが落ち「カラン」と音が響くと、部屋は静かになった。
一切の無駄がない。
三浜は、瞬く間に三人を制圧し、全員を戦闘不能の状態に追い込んだ。この間、実に5秒にも満たなかった。
倒れた三人の殺し屋を前に、三浜は荒い息一つせず、再びネクタイを締め直した。
三浜は、その後、警察に通報。
タイミング的に、おそらく大泉の差し金であろうことは予想できたが、彼ほどの重鎮が、マヌケにも三人の殺し屋を雇ったなどという証拠は残してはいないだろうと判断し、通報に留めたのだった。
ただ念の為、警察が到着する前に「一応聞くが誰に雇われた?何が目的だった?」と、圧をかけて三人に尋ねた。
すると三浜に気圧された男らは、直接の依頼主はわからないこと、そして三浜を痛めつけることが目的だったこと、それぞれが答えた。
そして政治家の秘書を痛めつけるなど簡単な依頼だと、引き受けたことを後悔したとも…。
三浜はため息をつくと立ち上がり、窓から見えてくるパトカーの赤い灯を見つめた。
呼び止めたのは、自正党の派閥の中でも最大勢力を誇る重鎮、“大泉 憲吾”。衆議院議員を10期務める、“経済複合連盟”(略して経複連)の意向を代弁する存在だ。
山元は振り返ると「ああ…大泉先生」と特に政界の重鎮だからと、驚く様子もなく返した。
「いい演説だったよ。若手らしく夢があってね」
大泉は、分厚い眼鏡の奥で薄く笑った。
山元は冷静に「夢ではありません、大泉先生。国民を救い、この国の安全を守るための現実です」と答える。
すると大泉の笑みが消えた。
「現実? 君は大きな勘違いをしている。この国の政治は、君のようなタレント上がりの絵空事で動いているわけではない。我々自正党が、経複連と共に何十年もかけて築き上げた安定の上で成り立っている」
大泉は、山元の肩に手を置いた。その手は、優しさではなく、重く冷たい圧力をかけていた。
「君は、その安定を破壊しようとしている。『出る杭は打たれる』という言葉を知っているかね? 若いうちは、もう少し協調性を持つべきだ。そうしないと…君が今持っている全てを、失うことになるぞ」
それは紛れもない脅迫だった。
その瞬間、山元と大泉の横に、影が差し込んだ。
へいせい革命組の第一秘書、“三浜 凌が、音もなく二人の間に割って入ったのだ。
彼は、山元の肩に手を乗せる大泉に何をするでもない、ただ立ってその姿を見せただけ。しかしその立ち姿には一点の隙もなかった。
三浜は、大泉に敬意を払いながらも、その言葉に一切の忖度をしない返答をした。
「大泉先生。本日は、山元代表へのご指導、誠にありがとうございます。しかしながら、“へいせい革命組”は、自正党のように企業・団体の後ろ盾を一切持たない市民政党です。あなたの言う経複連の意向は、我々には関係ございません」
三浜の口調は実に丁寧だったが、彼の鋭い眼光は、大泉の黒く濁った目を真正面から射抜いていた。
大泉は、三浜の瞳の奥に宿る、冷徹な気配に一瞬たじろいだ。
自分たちと利害関係のない第三者が、これほどの威圧感を放つことなど、利権にまみれた政治家生活の中で経験したことがなかったのだ。
大泉は肩をすくめ、山元の肩から手を離した。
「…ふん。面白い秘書を連れているな。だが、忠告はしたぞ」
大泉は吐き捨てるようにそう言い残し、立ち去った。
不快なその顔には、山元に対する殺意さえ感じた。
三浜は、大泉の背中から完全に殺気が消えるまで、山元の盾であり続けた。
山元は、そんな三浜の横顔を見つめた。
「…三浜君、ありがとう。君の眼光に、あの男は怯えたな」
「私は、山元代表の理想を守るためにいます。その理想を汚す者は、大物であれ、身を挺して守り抜きますよ」
三浜の顔が少し緩み、ふっと笑顔を見せた。
——その晩…。
“へいせい革命組”の党事務所。
夜遅くまで煌々と明かりが灯るのは、三浜が一人で残業している部屋だけだった。
彼は、山元代表の国会での演説後、党に寄せられた大量の賛否両論のメールと、自正党の圧力に対する反撃資料を準備していた。
その静寂を破って、殺気と共に見えない気配が三浜の背後に迫った。
殺し屋の男たち。
フリーの殺し屋である三人の侵入者は、物音を立てることなく室内に踏み込んでいた。
裏社会特有の空気をまとった彼らの目的は三浜だ。
“へいせい革命組”の第一秘書に徹底的な暴力を加えて脅迫する、そんな依頼を高額で引き受けていた。
依頼主は、自正党の大泉。彼から闇のルートを通じて雇われたプロフェッショナルたちだった。
三人の内の一人が、三浜の背後から頭部を狙って無音で拳を突き出す。
だが三浜は、振り返りもせずにその攻撃を紙一重でよけ、そのまま流れるような動作で椅子から立ち上がると同時にバックブローを、襲ってきた男の側頭部に喰らわせた。
「ごあっ!」
三浜の拳が横から直撃し、声を上げて倒れる男。
間髪入れず追撃のために飛び込んできたもう一人の殺し屋の蹴りを、三浜は柔らかな動きで受け流し、相手の体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、力強い正拳突きを、相手の胸部に喰らわせたた。
「ごっ!」と、鈍い音が響き、殺し屋の男は胸を抑え、後ろにヨタヨタとよろめいた。そして肺の空気を全て吐き出させられたかのように、その場に崩れ落ちた。
三浜はゆっくりと倒れた二人を見下ろした。
彼は普段の知的な表情のままだったが、その瞳には、暗闇の中でも光る獣のような闘志が宿っていた。
「やれやれ…、国政政党とはいえ金のない弱小政党故、事務所のセキュリティーが甘いのは仕方ないですが」
三浜はそう言い、結んでいたネクタイに手をかけ、ゆっくりと緩める。
「…アポなしの、夜更けの訪問は対応が手荒になりますよ。それに、私を頭だけの秘書だとナメているのではないですか?」
彼は、静かに、だが確固たる力を持つ自信に満ちた声で、自分の裏の顔を、三人の男たちに突きつけた。
「こう見えて私はフルコン系の空手の黒帯なんですよ。それに外交官職員の頃、ソレイア特殊部隊“ディスティニー・バイパーズ”で短期間とはいえ、訓練を受けた身。易々とはやられませんよ」
三浜の真の姿を目の当たりにした殺し屋たちは、わずかに驚愕に目を見開いたが、プロとしての本能が彼らをすぐに動かした。三人はそれぞれナイフを取り出し、同時に三浜に襲いかかった。
だが、三浜の動きは、彼らの想像を遥かに超えていた。
一見スラリとした体型に見えるが、その体幹は実にバランスよく強靭だった。
一人目のナイフによる刺突を掌底で軌道をずらし、その顔面にカウンターの正拳突きを喰らわす。
上からナイフを袈裟に落とそうとする二人目の男には、三浜自ら突進。身体を相手に密着させたと同時、ナイフを持つ腕を振り下ろさせないよう、相手の脇に自分の腕を差し込む形で組みついた。
そして小外掛けで足を刈ったと同時に組みつきを放すと、男は背中から勢いよく倒れた。追撃に胸部に上から靴の踵で踏みつけの一撃を加えた。
そんな三浜の背中に、ナイフを突き刺そうとする三人目の男。だが、三浜はまるで後ろに目でもあるかのように、男の腕を脇に挟み、同時に肘関節を反対方向は折り曲げた。
「ぎゃああ!」と悲鳴をあげる男の手からナイフが落ち「カラン」と音が響くと、部屋は静かになった。
一切の無駄がない。
三浜は、瞬く間に三人を制圧し、全員を戦闘不能の状態に追い込んだ。この間、実に5秒にも満たなかった。
倒れた三人の殺し屋を前に、三浜は荒い息一つせず、再びネクタイを締め直した。
三浜は、その後、警察に通報。
タイミング的に、おそらく大泉の差し金であろうことは予想できたが、彼ほどの重鎮が、マヌケにも三人の殺し屋を雇ったなどという証拠は残してはいないだろうと判断し、通報に留めたのだった。
ただ念の為、警察が到着する前に「一応聞くが誰に雇われた?何が目的だった?」と、圧をかけて三人に尋ねた。
すると三浜に気圧された男らは、直接の依頼主はわからないこと、そして三浜を痛めつけることが目的だったこと、それぞれが答えた。
そして政治家の秘書を痛めつけるなど簡単な依頼だと、引き受けたことを後悔したとも…。
三浜はため息をつくと立ち上がり、窓から見えてくるパトカーの赤い灯を見つめた。

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