第一話
川の岸辺で釣りをする二人組がいた。どちらも人間の見た目をしているが人間ではない。片方は精霊王。名前をユニという。全ての精霊を統べる役割であるが現在は息抜きと称してサボっている。二十歳ほどの女性の見た目をしているユニは、長い金色の髪を耳に髪をかける。
もう一方はハーフエルフ。名前はディ。人間とエルフから生まれた故に、その両方の種族から忌み嫌われる。年齢はまだ十五歳ほど。ハーフエルフとしてはかなり新参者だ。銀色の前髪がそよ風で揺れた。
無言で釣りをする二人だったが、ディが「逃げられた」と食われた釣り糸を手にする。ユニはその姿を見て微笑む。やがてユニが口を開いた。
「ねえ、ディ」
「なんだよ?」
「私が死んだら、転生後の私のこと、よろしくお願いしますね」
凪いでいた水面が小さく揺れる。あまりに自然な流れで縁起でもない話をするユニに、川を見ていたディは思わずユニの方へと顔を向けた。ユニは川の方を見つめていた。笑みを浮かべているがどこか寂しそうに見えた。
無茶を言うなよ。それがディの素直な気持ちだ。ディはハーフエルフ。皆から嫌われるのが当たり前。精霊が住まうこの里に居るだけでも奇跡に近いのだ。そんな奴が精霊王であるユニの面倒を見るというのは無理がある。
しかしディは「無茶を言うなよ」と、突き放すようなことは言えなかった。地位もあるだろうが、精霊王ユニは短命で有名だ。その孤独感は計り知れない。代わりに、ディは言葉を紡ぐ。
「そうだな。たまに顔を出すくらいのことならしてやるよ」
「ふふ。ずいぶん上からですね。精霊王を相手に」
「うっせ。いいだろ、別に。友達相手にこれくらい」
「友達……そうですね」
目を伏せるユニ。すると、ユニの釣り糸に魚が食いついた。ディはすぐに「食いついているんじゃないか」と教える。ユニが釣り竿を引っ張り、魚を陸へと引き上げる。
「えへへ。やりました」
ビチビチと激しい動きを見せる魚を掴み、ユニが無邪気に笑う。やっぱりユニは笑顔の方が似合う。ディは内心で思っていると、遠くからユニの名前を呼ぶ大声が聞こえた。
「ユニ様~! どこですか~!」
「クロノスのやつ。もう嗅ぎつけたのか」
あのクソジジイ。と、ディが苦々しく吐き捨てる。
「ディ」
「ん?」
「さっきの話、約束ですよ」
さっきの話。転生後の話か、と理解するディ。
もちろん。
「ああ。約束だ」
その時、周りの景色が一瞬、大きくブレ暗転する。なんだ?
「見つけましたぞ。ユニ様~!」
「逃げますよ。ディ」
「え、ああ」
ユニがディの手を掴む。しかし、掴まれた手の感触がない。ああ、そうか。そうだった。
「何故、逃げるのですかー!?」
「あははっ」
これは夢だ。楽しかったあの日々は、あの時のユニはもう……どこにも。理解と同時に視界が暗闇に染まる。
『転生後の私のこと、よろしくお願いしますね』
あの約束がなかったら、今頃どうなっていただろう。
最初のコメントを投稿しよう!