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38.ドライフラワー
全然話がわからない。
パン屋のハリスは天井を見上げていた顔を時計に向けた。
「あー、とりあえずアイラ、シャワー行ってこい」
俺も売上数えたり、やる事があると言うハリス。
「あっ! もう8時!」
「また後で話そう」
わかったと言いながら立ち上がるアイラ。
ハリスも店へと戻り売上確認、明日の準備を行った。
シャワーを浴び、洗濯を終えたアイラは食器も洗って片付ける。
時計は9時半。
ようやくカバンを開き、中からタオルに包んだ薔薇を出した。
「あー、やっぱり潰れちゃってる」
最初にもらった一輪の薔薇は花びらが一枚取れてしまった。
アイラはタンスから母エルマが縫った小さな袋を出し、薔薇の花びらを入れた。
まだ茎に付いている花びらも丁寧に取り、袋の中に。
「……いい匂い」
干からびかけているのにまだいい匂いがする薔薇にアイラは微笑んだ。
花瓶の薔薇もそろそろ枯れてくるのだろう。
「アイラ、お待たせ」
「ねぇねぇ、ハリスおじさん。花って花瓶のまま枯れたら花びら取れちゃう?」
「取れるんじゃねぇか?」
「……そっか」
少し残念そうなアイラにハリスは「ドライフラワーにしたらどうだ?」と提案した。
「ドライフラワー?」
「マックスのばぁちゃんならわかるぞ」
「明日の朝、聞きに行っていい?」
「おう、行ってこい」
アイラの布団を敷きながら答えるハリス。
アイラは嬉しそうに薔薇を見つめた。
「……皇太子にもらったのか?」
「な、何でわかったの⁉︎」
そりゃわかるだろう。
こんな大輪の薔薇、平民にはとても手が届かない。
大事に花瓶に挿して、今もニヤニヤして。
「……アイラは、皇太子をどう思っているんだ?」
ハリスに聞かれたアイラは真っ赤な顔になった。

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