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prologue
自室にある飼育ケージに張り付くヤモリの小さな足をじっと見つめる。
幼いころは丸くかわいらしい形にしか見えなかったその足は、電子顕微鏡で見ると毛が1平方メートル当たり10万~100万本の密度で密生しており、さらにその先端が100~1000本程度に分岐した構造を持つ。だからこそ、垂直な面に張り付くことができるのだ。
研究室で飼育していたヤモリの卵から孵し、自宅で飼い始めて既に3年になる。体はだいぶ大きくなったけれど、潤んだ丸い瞳は本当に愛らしい。
「悟。ご飯にしようか」
そう話しかけて、定期的に仕入れる生餌にカルシウムパウダーをまぶして飼育ケージに放つ。
愛すべきこの子がいて、新素材の開発に関われて私は幸せだ。
≪研究ばっかりなんて、もったいない≫
――何が?
飼育ケージの中のショウジョウバエにパクっと悟が食いつく。
≪せっかくきれいなんだから、もう少し身なりに気を遣えばいいのに≫
――研究に関係ないでしょ!どうせ白衣だし!
今度は悟がコオロギを捕食した。可愛い顔をしているけれど、意外に食べ方は豪快だ。まるで、私の苛立ちに気付いて丸ごと飲み込んでくれているんじゃないかと思うほどだ。
あー、かわいい。
妹の陽風と同じくらいかわいい。陽風は人間で一番。悟は、人間以外の生物で一番。
人間の男に関心などありませんが、何か?

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