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本棚に追加好きだったイケおじのせいで、次の恋がややこしい**
イケおじゲイに恋するOL**
~ひかりの新しい恋の始まり~編1
異動の辞令が正式に出たのは、
灰原さんのパートナーが退院した翌週だった。
「佐倉ひかり、来月より新規プロジェクト室へ出向」
紙に印刷された文字を見つめながら、
私は深く息をついた。
灰原さんが背中を押してくれたあの夜から、
私はずっと心の準備をしていたはずなのに、
胸の奥にほんの少しだけ不安が残っていた。
(部長のいない場所で、私はちゃんとやれるのかな‥‥)
でも同時に、
ほんの少しだけワクワクもしていた。
“好きだった人の影を、
そっと手放した自分のままで歩けるのかもしれない”と。
◆
送別会のある日のこと。
プロジェクト室のメンバーが軽く挨拶に来ていて、
その中に一人、見知らぬ男性がいた。
「こんにちは。
新規プロジェクト室の成瀬です…」
すらっと背が高く、
眼鏡の奥の目つきが穏やかで、
声は低く落ち着いている。
私が名乗ると、成瀬さんは
ほんの少しだけ笑った。
「噂は聞いてますよ。
資料作成が早くて、プレゼンに強いって」
「えっ、そんな噂……?」
「部長が褒めてました」
一瞬、鼓動が跳ねた。
「……部長が?」
「“あの子は伸びるよ”って。
だから引き抜かれたんだろうなって」
胸の奥がじんわり温かくなった。
(部長……そんなこと言ってたんだ)
ふと、成瀬さんが私の表情を見て眉を上げた。
「灰原部長、人気ありますよね。
僕も一度だけ同行しましたけど、あの人すごいですよ。
誰にでも丁寧に接して、すぐ人を安心させる」
「そうなんです……」
思わず頬がゆるむ。
「……部長のこと、好きだったんですか?」
「えっ」
成瀬さんは慌てたように手を振った。
「あ、すみません! 変な意味じゃなくて。
好きって言っても恋愛じゃなくても、
尊敬とか、信頼とか、あるでしょう?」
「あ、あぁ……。
まあ、いろいろありましたけど……」
濁した言い方をしたのに、
なぜか成瀬さんは安心したように笑った。
「たぶん、佐倉さんは“いい恋をした人の顔”してますね」
「えっ、どんな顔ですかそれ」
「少し寂しそうで、でも前を向いてる顔です」
胸が少しだけざわつく。
恋じゃないよね…たぶん…
でも、なんだか目をそらせない。
◆
その帰り道、
エレベーターの前でばったり灰原さんと会った。
「異動のメンバー、今日来てたんだって?」
「はい。……優しそうな人ばかりで、安心しました」
「そうか。よかった」
灰原さんは、いつもの穏やかな顔で言う。
「佐倉。僕を頼らなくてもいい場所で、
君が力を伸ばせるといいね…」
「はい。
……部長にそう言われるのが、一番嬉しいです」
そう口にした瞬間、
心がすっと軽くなった。
たぶん、これが本当の意味での“お別れ”なのかもしれない。
すると灰原さんは、
どこか楽しそうに言った。
「ところで。
新規プロジェクト室に、成瀬っていたでしょ?」
「はい、いました。優しそうな方で」
「うん。
彼、いいよ…すごく誠実で、仕事も丁寧」
「へぇ……」
「それに――」
灰原さんは意味深に私を見た。
「佐倉みたいな子、きっと好きだと思う…」
「ぶ、部長!!」
顔が一瞬で熱くなる。
「いや、男女としてどうとかじゃないよ。
性格の話。
君みたいに真面目でよく笑う人と仕事すると、
彼もきっとやりやすい」
(絶対わざとでしょ……!)
でも不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、背中をそっと支えられたような気分だった。
◆
家に帰ると、
今日の出来事がゆっくり胸に沈んでいく。
灰原さんの笑顔。
成瀬さんの落ち着いた声。
新しい部署での未知の仕事。
私はふと思う。
(恋じゃないけど……
“何か”が始まる予感、ちょっとだけするな)
まだ恋じゃない。
でも、恋の入口みたいな予感‥‥。
それは、
失恋を越えた私へのご褒美みたいで――
胸の奥がじんわりあたたかくなった。

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