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襲撃
キュリ、キュリ、キュリ……。
遠くで回る水車の音が響く、山間部の小さな村ラカス。
水車の音に混じって、屈強な剣士達が交える剣の金属音と罵声がかすかに聞こえる。
私の幼なじみで3つ年上のテディルも、今頃随分しごかれているのだろう。
「母様、全ての花びらが揃ったわ」
私は木のトレイに72枚の花びらを並べ、母様に差し出した。
刺繍で作成した、白や生成色の花びら。
薄い布地に花びらを象った細いワイヤーを縫いとめ、その内側を刺繍糸で埋めていく。それを切り出したものを集め、立体的に組み立てて花を作り上げる。
立体刺繍で作る造花製作は、我がソレット家で代々母から子へ受け継いでいる稼業だ。
「どれも上手に作ったわね、ジェーン。きっとマリアさんも喜んでくださるわ」
母様はひとつひとつ手に取り、検品をしては微笑んだ。
「さて、それでは仕上げましょうか」
母様は花の図案が描かれたノートを広げた。
花心と茎のパーツを手に取り、そこへ1枚1枚重ね合わせたものを丁寧に組み立てていく。
私は母の技術をしっかり目に焼き付けながら、自分が作成したものが母の手によって美しい花の形になっていくことに喜びを感じていた。
「マリアさんの結婚式、楽しみだね」
この小さな村の村長さんの孫娘であるマリアさん。
来月、マリアさんの幼なじみで村一番の勇者であるカールさんと結婚式を挙げる。
村の子供達に優しく、器量も気立ても良いマリアさんは私の……いや、村中の子供達にとって憧れの存在だ。
今回ソレット家では、結婚式の衣装で使うマリアさんのブーケと髪飾り、カールさんのコサージュの製作依頼を請け負った。
その髪飾りとコサージュのメインとなる花の花びらの製作を、刺繍歴5年である13歳の私自ら母様にお願いして作らせてもらった。
マリアさんの幸せを願って、ひと針ひと針丁寧に仕上げた。

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