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1.
あなたは自分の部屋に、アレって感じの違和感を感じたことがありますか。
寝るのは勿論、勉強したり本を読んだりゲームをしたり、過ごし方は千差万別です。自室であれば使い方は自由、あなただけの異空間を演出することも可能です。
そうです、誰にも邪魔されず自分だけの世界を形成できるのです。
でも、そこに知らない誰かが介在してたら、あなたならどうしますか。
***
胡桃沢亮介は大学から帰ると、玄関で乱暴に靴を脱いで目の前の階段を一気に駆け上った。
生まれてからずっと住んでいる家なので、慣れ親しんだ階段は間隔も身体に沁みついている。足元など見なくても駆け上がれるはずだった。
ところが、あと一段というところで盛大にすっころんだ。最近の運動不足が祟っているのかと、ゲーム三昧の日々を後悔した。
それよりも打った向う脛がとんでもなく痛い。あの弁慶でも泣くくらいだから痛いに決まっている。たぶん流血してるかもしれない。
右足を擦りながら部屋のドアノブに手を掛けた。
すると何とも奇妙な感触があった。知らない誰かが触ったような生ぬるい感覚だ。部屋の掃除に母が部屋に入ることはある。
『ばばあ、またベットの下に隠しておいたエロ本を片付けやがったな』と悪態をつくことはあっても、それとは違う違和感だ。
恐るおそるドアノブを回して部屋の中を覗いてみる。特段の変化もなく出て行ったままの様子に胸をなで下ろした。なんだ考え過ぎか。
亮介はいわゆる視える人ではない。ただ友人の城下からは憑かれる質なので気をつけるようにと言われている。オカルト研究会の部長の言うことだから無碍にも出来ない。
でも憑かれるってなんだ、何を気をつければいいんだ。
言われた直後はそんな風に疑問に思っていたが時間が経つと忘れていた。
オンラインゲームの予約時間が迫っていた。
対戦相手は永遠のライバル、由人だ。コイツとは互角、いや僅かに戦績では負けている。今日はそれをペイにしたいとイキ込んでいた。
しかも川辺のカラオケの誘いを断ってきたのだ。川辺はどうでもいいが、もれなく付いてくる結衣ちゃんは可愛い。俺好みで歌もうまいけど、彼女でもないのにいつも川辺と一緒なのは怪しい。今度問い詰めてやるというタスクは置いといて、由人との対戦に集中しないと。
よーし、今日は絶対に勝つぞと気合を入れ直した。
ところが、いつもは簡単に攻略できる場面でも、初心者が犯すような凡ミスで悉く失敗ばかりした。
ズキズキと痛む向う脛のせいかと思ったが、そうではない。どうも背後に何かの気配がしてゲームに集中できなかった。
耳を澄ますと人のような人ではないような、得体のしれないモノの息遣いを感じる。神経質ではないが睡眠不足が続くと、妙に過敏になって気になる音を拾うことがある。
でもオカシイ、今日は何かがおかしい。いや今日というか最近だ。
一週間前には謎の高熱にうなされ、今も節々が痛い。頭の構造はともかく、身体だけは丈夫のはずなのに、一体どうしたんだ。気になり始めるとゲームどころではなくなった。
そうだ、相談するならアイツしかいないと、急に城下の顔が思い浮かんだ。以前に受けた忠告の意図も教えてもらわなければ。
電話を掛けたが10回コールしても出ない。この時間はデリバリーのバイト中なのを思い出した。留守電に切り替わったが何と入れていいのか迷って「また掛ける」と切ってしまった。
切って5分もしないうちに、城下から返信があった。
「どうした、この時間に珍しいな。何かあったか」
相変わらず、勘がいい。
「おっ、悪いな、バイト中だろ。大丈夫か」
「いま調理待ち、少しなら話せる」
「う―ん、説明が難しい。……簡単に言えば部屋に何かがいる。気味が悪い」
「わかった、今日は暇だから早退してお前んちにくよ。家にいるんだろ、待ってろ」
「あ、ああ.....サンキュ」
焦るように電話が切れた。
わかったって、何が⁈ バイトをキャンセルしてまで駆け付けなければいけない重大なことが起きているのか。
いつもは沈着冷静な城下の慌てぶりが余計に不安をあおった。

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