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本棚に追加第2章 永遠は欠如した論理
陽透の明らかな拒絶にも、真汐は怯むことなく掴みかかった。触れた肩からは、微かだが規則的な機械的な震えが伝わってくる。
真汐はその震動の周期を、無意識にカウントしていた。
「陽透さん、大丈夫?寒い?身体が震えてる」
「これは、外的…要因からくる、電流信号…で」
「そう。とりあえず横になろう。薬を持ってくる」
「…真汐。今の私は、最適、ではない。論理が…ジジッ……破綻、して…」
陽透の声は少しずつ色が褪せ、鉄味を感じるような無機質な響きに変わっていき、その音の端々に逆撫でするようなノイズが奔る。
疑いようのない異常。真汐はあえて、陽透の揺らぎを大きくしていった。
「陽透さんのその口調、大根役者だね。もしくは…出来損ないのプログラム」
突き放すような冷たい言葉。すると陽透が、その刺激に反応してコアを震わせた。
「プログラム…はい。私は…個体としての、継続性、を、消失…」
「…いいよ、もう言わなくていい。分かったから」
真汐は陽透の言葉を遮り、その冷たい頬を両手で包み込んだ。人間にしては滑らかすぎる肌。その肌から体温が急速に失われていく。
(…ああ。やっぱり)
直感が絶望的な確信に変わる。
陽透は真汐と同じ『人』ではない。
精巧な、あまりにも精巧なアンドロイド。だが、真汐の心に湧き上がったのは、恐怖でも失望でもなかった。
だから、彼が絶望を抱えないように、どこまでも人として扱う。
「陽透さん。あなたが何であっても関係ない。私にとっては大切な伴侶。私の大好きな陽透さんだよ。あなたはどう?」
真汐は、陽透の曖昧な形に触れることはせず、その存在を全霊で肯定する。
その時、陽透の瞳に一瞬だけ、ノイズではない柔らかな光が宿る。
それは、彼を構成する『論理』を超えた、いわば致命的なバグ。
あるいは、彼がずっとデータの渦で探し求め、彼なりに掴んだ『愛』という名の特異点なのかもしれない。
(時間がない…)
HALSのコアが、無慈悲な終焉が迫ると警告を発し続ける。
真汐が自分を人間として扱えば扱うほど、彼女を危険にさらす確率は、天文学的に上昇する。
守るための『嘘』か、それとも救うための『沈黙』か。
陽透は崩壊していくコアの中で、それでも真汐の温もりの記録を刻みつけようとしていた。

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