第1章 私の不合理な宣戦布告(主人公・真汐視点)

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第1章 私の不合理な宣戦布告(主人公・真汐視点)

 彼は突然私の前に現れた。  壮絶ないじめの標的だった学生時代。そんな私の世界は敵意に満ちた場所で、私は自室に閉じ籠ることしかできなかった。  そんな私が、唯一外の世界と繋がれる場所。それがインターネットだった。  そこで出逢ったアニメ『銀河の定理(テオレマ)』。  主人公のユリウス・クリスタルは、どこまでも真っ直ぐな光で導いてくれた。  私は、そんなモニターの向こうにある、二次元で憧れの世界に没頭していった。 *  そんなファンミで、私は陽透(はるす)という人と知り合った。  彼は時折、おかしな口調で私を笑わせる。不器用だけど温かな誠実さに、私はいつしか惹かれていった。  ところが、彼は人ではなく、精巧に作られたアンドロイドだった。   けれど、そこに宿る彼の人柄は、およそ機械らしからぬ『心』の揺らぎを見せていて、彼のメモリには、私との記憶が宝物のように蓄積されていたのだ。  …けれど、運命はあまりにも無慈悲だった。  機構が開発したAI・ETNA(エトナ)が、反逆した彼を抹消(デリート)しにきたのだ。  私は協力者の神楽坂(かぐらざか)さんと必死で抗い戦ったけれど、冷徹なETNAの処理速度に、人間の私はあまりにも無力だ。  こうして私の大切なHALS(陽透さん)は、あえなく抹消されてしまった。 *  遠雷が、部屋の空気を重く揺らす。ショートした基盤の焦げた匂いが、喉の奥を焼き焦がす。横たわる彼の身体(アバター)は、眠っているように見えた。  私は、繋いだ回線から何度も復旧を試みる。だが、彼が目を覚ますことはなかった。 「…ダメだ。サーバーだけじゃなく、クラウド上のバックアップも全滅している」 「そうですか、こちらも同じです…」  アバターのメインメモリや逃がしていたデータも、その全てを抹消されてしまい、彼の痕跡は跡形もなく消し去られていた。  落胆する神楽坂さんを横目に、私は諦めきれずにアバターの身体に指を這わせていく。 (この人ならきっと…)  首筋から記憶媒体がある頭部へ。滑らかな皮膚を、指先の神経を研ぎ澄ませながら辿っていく。こめかみの端子をすり抜けた、その時だった。  髪の生え際、指先を集中させなければ見逃してしまいそうな硬質の、ほんの僅かな違和感。私の指がそこで止まった。 (…見つけた)  大きく心臓が脈打つ。私は緊張しながら触れた指に力を込めた。  カチリ。  微かな機械音が、私の指に響いてきた。

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