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ポジティブ亡者
おれは死んだらしい。正直驚いている! 駅のホームから落ちて、そこに電車が入ってきて、ヤバいとは思ったさ。けどまさか、本当に? あんなん、ドウェイン・ジョンソンならかすり傷よ? はーまじか、おれまだ二十代だったのに。もったいなさすぎる。
さらに驚いたことに、気づけばおれはあの世にいた。白い大きな部屋の中で、大勢の人びとが立ったり座ったりしている。たまに名前を呼ばれた人が出ていくところを見ると、どうやらここは待合室みたいなものらしい。
他にすることがないので、おれは隣に座っていた学生服の少年に話しかけた。
「おれら死んだとか、びっくりだよねー」
「え? あ、はあ。そうですね」
「君なんかまだ、ぜんぜん若いじゃん。なんで死んだの? じさつ?」
「ふつうそういうこと聞きます?」
少年はダルそうな顔をしたが、なにせ待ち時間がとても長い。めげずに話しかけていると、だんだん会話がはずみはじめた。せっかくなので、周りの人たちも巻き込んでみんなでしゃべる。えーっお兄さん、百二歳ってダイオウジョウじゃん! そっちの彼女は食中毒? やっぱキノコは怖えーよ。てかこれ、いつまで待たされるんかな。ここで出会えたのも何かの縁だし、みんなで合コンでもやっちゃうー? なんてノリになってきたところで、おれの名前がコールされた。
「じゃ、お先でーす」
みんな元気でねー! もう死んでるけど!
扉の前で待っていたのは、たぶん女性の、鬼だった。ふわっとしたパーマヘアの間から、一本角がのぞいているので間違いない。小柄だががっちりした、レスラーみたいな体格でスーツを着ている。肌の色が赤っぽいから赤鬼だろうか。
「草野さんね、こんにちは~。担当の池袋です~」
「ちわっす! 死んだの初めてなんで、よろしくお願いします!」
「うふふ、みんな初めてだから大丈夫よ~」
池袋さんのしぐさや口ぶりは近所のおばちゃんみたいで、ちょっとホッとする。部屋を出て、短い廊下を抜けた先には大きな鏡があった。
「じゃあ、この前に立ってね~」
「えー? 何が映るんすか?」
うながされるまま鏡の前に移動した。が、おかしなものは映っていない。
「あら? そうかあ……は~い、大丈夫です」
池袋さんは拍子抜けしたような表情だ。気になりすぎて聞いた。
「すんません、これ何ですか? 何かが映るはずだったんですか?」
「映るかな~と思ったんだけど。まあ、こういうこともあるよね」
「えっ、めっちゃ気になる。何が映るはずだったんですか?」
「う~ん。あのね。過去に性交渉を持った人が映るの」
「ええええ!」

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