クリスマスの唄 神猫クロ

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クリスマスの唄 神猫クロ

 この街には、まとしやかに流れている噂がある。この街の守り神は二匹の猫であり、満月の夜には小さな黒猫が駆け抜け、新月の夜には大きな白猫が駆け抜けるという。そして、それは事実であると知っている。神猫と呼ばれる二匹の猫の一匹は僕であるのだから。 「また、ため息ついとるの?」  相棒であり恋人でもある神猫シロは、街の様子を鏡で眺めていた僕に問いかけてくる。 「うん……。クリスマスだってのに、僕らが神猫になってから、何十年も経っているのに、未だにクリスマスプレゼントどころか食事も満足にできない子供たちがいる……。僕らがいる意味って何なんだろうなって……」  シロも僕の隣に来て鏡を覗く。 「そやね。と言ってもうちらが物品を与えるのは、神の行為に違反してまう。でもな、そんな時、神猫クロはどんな風に行動してきた? うちらのやることは、それでええんちゃうの?」 「うん……」  僕らは、神猫と呼ばれるけども新米の神様だ。何ならまだ修行中の身だ。ただの猫が神になって、まだ百年も経っていない。シロは文句も言わずに僕の行動に付き合ってくれるけども、ときに人の世の残酷さにやるせなくなる。  僕が神猫になったのは、戦争が終わってからそんなに時間が経っていないときだった。僕は世の中はきっと平和で豊かになると信じて、その一歩を踏み出した。でもだ。技術は進化して文化は発展した。それでも貧しい人はいるし、争いは絶えない。特に子供たちが苦しむさまを見る度に僕の胸は掻き(むし)られるんだ。 「……とりあえず日が暮れたから、街を見に行こう……」  シロはこくりと頷いてみせる。 「うちな、今のクロみたいな想いは何度もしてるんや。でもな、クロがアホみたいに駆けずり回るから、それに付き合うの嫌いやないんよ」 「そっか」  僕らは一緒に鏡の中に飛び込む。これに飛び込むと僕らが担当している街のどこへでも行ける。神猫と呼ばれても何でもできるようで何でもできる訳じゃない。時代を変える干渉はできないし、物品は与えてはならない。御利益は与えてもいいが、その者の未来にも関わってはならない。ほとんどが人間に対しての規則だが、それらを必要とする大半が人間だ。  神という存在も、僕が飼い猫であったから知った概念だ。僕らは一度死んで神猫となった。それは幽霊や妖怪といった類と大差はない。ただ、僕らは他者のために死後動いている。それだけが僕らが神猫と呼ばれる所以だ。  今夜は満月。クリスマスを過ぎたよく冷えた夜。僕らは足音も立てずに街を駆け抜ける。

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