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14 ノクティス③
ベットーニ伯爵邸を訪問してからしばらくして、僕のもとに王宮から勅書が届いた。
内容は、もうじき隣国から到着する使節団に参加している王族の案内役を任せたいとの事だった。
王族は王女だという。
正直面倒だと思ったが、まさかこの出会いが自身を変えるきっかけになるとは、この時の僕は夢にも思わなかった。
「うわっ!」
隣国から来た王族──アシュリー王女は僕の顔を見るなり声を上げた。
「二次元と実写版の違いエグっ……!」
「僕の顔が何か?」
「あ、いえ、オホホ。ごめんあそばせ」
「……?」
この王女、言葉は通じるのだが、終始言っている事がおかしい。
──きゃーっ!この王宮、ゲームで見たのとそっくりそのまま!
──あれが攻略対象者の王太子かぁ……イイわね……
──ちょっとなんか……ノクティスだけ挙動がおかしいわね……バグ?
あえて口にするのは憚られるが、世の中には頭の中身が残念な人間が存在する。
なので僕は気にせず自分に課せられた任務をこなしていたのだが、彼女が口にした【あるひと言】により事態は一変する。
それは、アシュリー王女が休憩中の出来事だった。
『そういえば、エリーゼはいつ登場するのかしら……』
最初は聞き間違えたかと思った。
しかし、続けて王女はエリーゼの名を口にしたのだ。
『可哀想だけど、全エンドで殺されちゃうのよね~』
──今、なんて?
殺されるって誰が?まさか、エリーゼが?
僕の知る限り、アシュリー王女とエリーゼに接点はない。
それなのになぜ王女はエリーゼを知っている?
脳内で未曾有の混乱が起きた僕は、気付いたら大声で叫んでいた。
『エリーゼが殺されるとはどういう事ですか!?』
そのまま僕は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたアシュリー王女に詰め寄った。
僕の剣幕に白旗を上げた王女は、躊躇いがちに信じられない事を語り出したのだ。
まずここは、未来の世界で作られたゲームの世界なのだという。
ただひと口にゲームといっても、僕らが知っているカードやボードゲームとは違い、選択肢により複雑に分岐されていく演劇のようなものなのだそう。
そして僕はそのゲームの主要人物で、エリーゼは脇役──ストーリーの途中で必ず殺されてしまう悪役の令嬢。
アシュリー王女は未来の世界で命を落とし、気付いたらこの身体に乗り移っていたのだと。
だが当然、そんな話がにわかに信じられるはずもなく。
胡乱な目を向ける僕に、アシュリー王女はラクリモサ公爵家の状況や、ベットーニ伯爵の悪事について当事者しか知る由もない話を詳細に当ててみせた。
──まさか、本当なのか
『エリーゼは殺されるのですか!?いったい誰に!?』
『色々よ』
『色々って!?』
気まずそうな目が僕に向けられた。
──まさか、僕が?エリーゼを?
そんなのありえない。
思わず叫びそうになるのを既のところで堪えた。
『僕はそんな事絶対にしない』
『もしかしてあなた……エリーゼの事が好きなの!?』
図星を指され、顔が火を噴いたように熱くなる。
好きなんて軽いものじゃない。
僕のエリーゼに対する気持ちはもっともっと深くて重い。

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