襲撃

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襲撃

 闇夜だった。 星明かりもない曇天の下、音もなく走る集団の最後尾に麻(あさ)はいた。 先頭は炎(えん)、里で最も強い男。 二番手から五番手までは炎配下の手練れの上忍である。 下忍の自分が何故この任務に呼ばれたのかは知らないが、炎の指名であるならばこれ程名誉なことはなかった。  絶対にやり遂げる…  そうはいっても、これだけの上忍集団の中での自分の役割は些少なもの。 これから襲撃する屋敷の周囲を見張り、爆破に備えて逃走道程を確保する。 直接何かをするのではなく、あくまで補佐的な役割である。 それでも。  お役に立ちたい…  炎はずっと心の支えであった男だ。 天才的な出来の良さで常に里内の頂点に立ってきた炎に、麻はいつからか淡い恋心を抱いていた。 近付く事など到底出来ない、ただ遠くから見つめるだけの恋。 だからこそこの男のためにどんな形でも良い、僅かでも役に立てたなら… そう思って任務に就いた。  闇夜の行業が唐突に停止した。 瞬時に輪となり、声は出さず指文字と呼吸の音だけで意思を通ずる。  計画通り、配置に着け。  炎の静かな目線と共に送られた指示に従い、麻は板塀沿いの監視任務を始めた。 背後では五人の上忍が屋敷に侵入してゆく。 音はない。 気配もない。 僅かに空気が揺らめくのみ。  警戒を続けること半刻。 入った時と同じように上忍らが出てきた。 予定通りの行動には一糸の乱れもない。 但し幾らかの着乱れはあった。 黒装束からは血が香る。  爆破し、撤収。  炎の指示に一同動き出す。 警戒しながら見定めた経路を伝えると、上忍四名は掻き消えるように姿を消した。 あとは爆破。 細い線のように撒かれた火薬に火を点ければ即座に爆発が起こり、屋敷は夜明け前に燃え尽きる。  火を点けるのは、炎の役目。  なのにどうして振り返ったのか。 自分も先の四人と共に消えなければならなかった。 それが最初から出ていた指示。 なのに、どうしてか。 振り返ってしまった。  指先に火種を点した炎の背中。 その向こうの暗闇から伸びてきた白い手。 小さい、まだ子供の。 手。  その後のことは一瞬毎を切り取ったかのように、目に焼き付いた。  飛んだ火種。    それが火薬に届く前に、子供に覆いかぶさった炎の背中。  何かが聞こえた。  それが自分の声だと気付いた時には、炎と子供を横から突き飛ばしていた。  爆音。  熱と、痛み。  後のことは、覚えていない。

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