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陽キャ*side
「ねえねえ沙綾(さあや)、何食べてるのー?」
幼馴染みの川田希美(かわだのぞみ)が私の席の横に立って私の手元を覗き込んできた。わかってるくせに少しわざとらしいしゃべりかた。そうして目を輝かせる。
「クッキーだね! 手作り素敵! 食べたい!」
勢いのまま私の手元の箱に手を伸ばしてきた。希美の大好物はクッキー。私の得意な手作りクッキーをいつもおいしいおいしいと食べてくれる。知ってる。でも今のこれは結構演技。教室中の注目を集めたいのだ。ありがたい。
「いいよー! シェアしよ、シェア」
このクッキーは希美のため、でもあるけどある人に食べさせるためにつくってきたのだ。フライングで私が食べてしまったのはご愛敬。まだ二時間目のあとだというのにおなかが空いてしまった。
女子高生としては普段使いのタッパーにいれるのはさすがに駄目だと思って、ピンクの可愛い箱に入れてきた。いろんな味のクッキーをカラフルに並べた。プレーンとチョコ、紅茶にストロベリー。抹茶もある。さくさくした食感が好きで、厚みがあるのに口の中でほわりとほどけるクッキー。これは昔、希美と一緒に初めて作ったクッキーを私がひとりで進化させたもの。
「おいしー。沙綾のクッキーはほんっとにおいしい!」
「んふふー。ありがと!」
「おっ! 俺にも1枚!」
ドキッ!
その声に心臓が跳ねた。
快斗の明るい声。──やった。きてくれた。
「いいよ! 食べて食べて!!」
私はぐいっと快斗に箱を差し出す。やっぱり可愛い箱に入れてきてよかった。希美がにやにや笑って私を見ている。このやろ。
「あのね、おすすめは抹茶!」
「いいねー。俺の好きな味」
「快斗はじじくさいからさー」
「こら、希美、オトナだからって言えよ」
緑のクッキーをつまんで口に放り込む。
「うっっっま」
「でしょでしょー」
希美が横からまるで自分がつくったように胸を張る。そして私にウインクしてくる。
「沙綾のクッキーはめっちゃくちゃおいしいんだから!」
「ほんとだほんとだ。うまい」
「えへへ。ありがと!」
もぐもぐ動いていた口。飲み込んだ喉の様子。じっとみていて嬉しくなる。ほんとは快斗に食べさせたくて作ってきたんだ!
「俺さ、誕生日なんだよなー、今日」
「ええ! そうなの?」
あ、ちょっとわざとらしかったかな。知ってる知ってる。
「よかったね、沙綾のクッキーが誕プレじゃん!」
ぐふふ、と声をだして希美が笑うから私もにやにやしてしまう。
知ってるさ! 希美に聞いたから。知ってて作ってきたんだよー! そんでもってさりげなく料理できるアピールもしたくて。全くもって希美の情報通に感謝感謝。
「じゃあさ、希美もなんかくれよ」
私のストロベリークッキーをつまみながら突然快斗が希美に向かって催促をした。その声に私はふっと希美の顔を見てしまう。
「ええ? えっと」
戸惑った声。私をチラリと見てくる視線。
『ええ?』ってそれは私のセリフ。だって、私に『ありがと』も言わずに? 快斗、私じゃなくて希美にプレゼントの催促するとか。なんかおかしいんじゃない?
「私のクッキーだけじゃ足りなかった?」
微妙に嫌味がまじった私の言葉を、快斗はまるで意に介さないように手をひらひらと振って答える。
「んなことないよ、うまかった。ありがと。でもさ、せっかくの誕プレならさ、希美からも欲しいなって思って」
なにそれ。明るく言ってくれるじゃん。
むうううう。
「あ、あのね、じゃあさ明日あげるから。明日なんか用意するから今日は沙綾のクッキー! ほら、もっと食べて」
「『もっと食べて』って。──私が作ってきたクッキーなんだけど」
とてもとても不穏な声をだしてしまった自覚はある。希美が黙り込んだ。
でもさ、気になるじゃん。なんで私じゃなくて希美のほうを気にしてるの? って。
希美が私に言ったんだよ。
『明日は快斗の誕生日だから得意のクッキーで攻めてみたら? ほら、教室で開けてたら絶対食べにくるって。あいつ食い意地張ってるから!』
うれしくてついつい調子にのって作ってきたけど。
希美は私の応援をしてくれてるって信じているけど。
私はこんなふうに、クッキーをシェアするみたいに彼をシェアするなんてできないんですけど。
なんかむかむかする。
でも。
私のクッキーを食べながらうまいなこれって笑ってる快斗を見たら文句が言えない。何も気にしていない顔で明るく笑うのが精一杯だ。
「ねえ、もっと私のクッキーもほめてよー」
拗ねた声になってしまった。ちらりと私のほうを見て、快斗が無理矢理するみたいに口角をあげる。
「うまいうまい、すっげえうまいから。これくらい希美もつくれるの? 食べたいなあ」
途中から私のことなんて見もせずに、希美ばかりに笑顔を向ける。なんだろう。どうしてだろう。くやしい。だから。
「そっか! 私のもおいしいのよね! よかった! じゃあ全部あげる! 希美と一緒に全部食べていいよ! 希美もこれが好きって言ってたし。快斗の誕生日だって希美も知ってるんだし。──もしかして誕プレも用意してたりして?」
思いっきり笑顔で言ってやった。目が笑っていた自信はない。
にへら、と希美の顔が崩れる。そのまま視線を逸らされて、私はもういいや、と思う。
「ええー? 希美が俺に? うっれしいな。はよくれ、はよ」
両手をださんばかりの勢いで快斗がこれ以上ないくらい顔をほころばせている。
なんだ。
もういいよ。
ガタンッ
大きな音をたてて、──もちろんわざと大きな音にしてやって、授業の合間の休み時間にざわついている教室中の視線を集めてやった。
「はやく告白でもしちゃえばいいじゃん!」
捨て台詞のつもりだったけど、多分声はものすごく明るかった。そう。ふざけて言ってるくらいの明るさだった。きっとそうだったと思う。思いたい。ふざけてるだけって思ってほしい。ううん、ほしくない。
しん、としたところでとどめの一言。
「クッキー、私はもうつくらないからさ、希美ががんばって上手になりなよ」
クッキーをぶちまけなかったことを誰か褒めて欲しい。
*
そのままお手洗いにいって、戻ったらすぐに授業が始まったから、残りの休み時間中のことは知らない。
『ごめんね、クッキーあのまま快斗が食べたよ。おいしいって言ってたよ』
そんなメッセージを夜、希美からもらったけど。
もうそんなことはどうでもよくて。
『はいはい、おめでと。これからは希美がクッキーつくってあげてね』
おめでと
っていうスタンプをポンと押して返信するくらいしかできなかった。
はあ。
今度はクッキーじゃなくて私自身を好きになってくれる男子に恋できるといいな。
彼をシェアするなんて無理だもん。
陽キャ*side*了
*

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