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「綾瀬さん、大丈夫?」
「…常務」
階段に座り込むあたしのそばまで歩いてきた常務は硬い鉄板の床へと高級なスーツが汚れることも気にせずに遠慮なく片膝をついた。
「どうしたの、体調悪い?」
「…いえ、」
「もし、体調悪いなら医務室に…」
あたしの顔を覗くように様子を伺おうとする常務から距離を取るように立ち上がる。
「だ、大丈夫ですっ」
「…綾瀬さん?」
「…っ、あたし…仕事が残ってますので…」
「待って、綾瀬さん…」
常務があたしの名前を呼んだと同時、常務の胸ポケットに入っていたであろう仕事用のスマホが音を立てて鳴った。
「………、もしもし…はい、…すぐに行きます」
スマホを持って、誰かと話をしている常務に一礼をして、この場を足早に去った。
「おかえり。…え、大丈夫?」
非常階段から飛び出して秘書課まで走ったあと、扉を開けてデスクに座ったあたしを見て先輩は不思議そうに聞いた。
「綾瀬さん?」
「…はい。すみません、戻ってくるのが遅くなってしまって」
「ああ、大丈夫よ。さっき手伝って貰ったから時間には余裕あるし?…それより綾瀬さん、体調悪いの?顔色…悪いわよ?」
「…いえ、大丈夫です」
「…そう?もう今日は常務も内勤だけだしきつかったら帰ってもいいわよ?あと30分くらいだし」
「お気遣いありがとうございます。ですが、本当に大丈夫ですので…」
「…そう?」
「はい」
「辛かったら無理、しないでね?」
「ありがとうございます」
まだ、胸のざわめきは残っているけどそれには気が付かないふりをして、残りの仕事に意識を切り替えた。

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