絵師ランク最下位の最下位

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絵師ランク最下位の最下位

 ちょっと聞いてほしいんだ、昔の話を。 そんなに昔じゃないけどね。 この世界のてっぺんとドベ。 お城に住む王様を頂点に、王族、貴族、宰相などの役人達。こいつらはてっぺんにいる。ドベは田舎にも帰れず、王都のスラム街で暮らす。都会に残りたい一心で残るうちに、田舎に帰る金も健康な足腰も失っていく。食うや食わずで痩せ細り、我が身を削り病や怪我で伏せる。 ー人知れず王都の片隅野垂れ死に 弔う人すらいない孤独よー  スラム街のレンガの壁に刻まれた殴り書き。煌びやかな王都は、夢破れた者の血と涙など無かった事にして、今日も王国の栄華を誇るように、賑わいを見せる。  絵師の世界にも身分は反映される。王族や貴族が嗜みとして描く絵は、馬鹿デカイキャンバスに、高級な油絵の具で描かれる。そういう目の肥えている王族、貴族を唸らせるような名画を描く宮廷画家。絵師ランクの頂点は身分を考慮して王族貴族になるが、実質のトップは宮廷画家。宮廷画家になるには、きちんと学校に通わなきゃいけない。学費を出せる裕福な家か、貧しくとも学費免除の試験に受かる天才か。 絵師のトップエリート養成コース。それが宮廷画家学校。宮廷画家学校に受からないのに諦め切れない奴らが、ビラや看板の絵を描く職人になる。職人コースは魔力の有無を問わない、誰にでも開かれた道。 ーただし、男に限るー  看板作りやビラのガリ板削りは力仕事、女の出る幕はない。荒っぽい教え方の徒弟制度で親方と弟子の関係。 「もしもあんたがさ、絵描きになりたくてね。女で家も貧しかったらどうする?スラム街までは行かなくても貧乏暇なしの家だとして」  老婆は試すように私に聞いてきた。 「働きながら絵描きを目指すとか?」 「いい線いってるね。魔力もない、金もない、才能もない。そんな女でも、昔は紋章絵師という仕事があってさ。決まった形を描ければ仕事になったんだよ」 「失礼ですが、ガリ板があるなら印刷してしまえばいいのに、なぜ手仕事で?」 「鋭い質問だ。魔力を籠めるのは魔道士がやる。下絵は紋章絵師が手描きで受け持つ。魔力を籠めるのに印刷だと機械的で上手く入らないという魔道士の言い分が建前さ。本当の所はね…。世界戦争で戦地に赴く兵士に『景気付け』をする仕事なのさ」 「『景気付け』とは…」 なんとなく答えがわかるような気もするが、私の口からはっきり言うのは憚られた。 「紋章絵師はBARの踊り子と大して変わらない。夜遅くまで働くか、普通の人と同じように夜は眠れるかの違いしかない。紋章絵師だけじゃない、吟遊詩人も似たり寄ったりさ。長引く世界戦争で、踊り子や公娼に蝶よ花よと着飾らせる余裕が無くなった。それらしく紋章絵師や吟遊詩人として女にも仕事をさせて、その実踊り子や公娼と同じ事をさせる。王様も戦争で国の金が尽き掛けて、狂っちまったのさ」 「でも…この世界戦争大全に乗せられた史実と矛盾が…」 「史実なんてね、都合の悪いことは闇に葬られて書かれないよ。お嬢ちゃんは再び戦争になったら真っ先に国に騙されそうで心配だ」 「いえ、本当の史実とは何か。それを書き記すことが私の目標でして...」 「あんた馬鹿だね、禁書になるような物をわざわざ書くのかい?」 「ええ、文字通り命掛けです。国に都合の悪い事を書けば抹殺されるかもしれない。それでも、事実をねじ曲げてはいけない。戦争を否定している訳ではありません。極度に戦争を美化する世界戦争大全を、検証する書物が必要だと。それで証言を集めています」 「お嬢ちゃん、あんた昔の私にちっとばかり似てる。無鉄砲で勢いだけいい所が。いいよ、詳しく話してあげよう。私が天使だった頃の事をさ」  私は驚きのあまりペンと手帳の取材セットを落とした。老婆は軽く笑うと、曲がった背中から、抜け落ちた羽根が痛々しい天使の翼を広げて語り始めた。

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