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【休息の〝下〟】※R
大きめの溜め息が出た。
他社との連携にスケジュール管理や予算、期間や人員を幅広く確認すべきところが多々ある。
本来数年かかることを凝縮して進めれば、それだけハードでタイトになるのは当たり前だ。
一日中パソコンの画面を見ていれば、目も疲れるし肩も凝る。だが俺のわがままで計画を進めていて、部下にも無茶をさせているのだから俺がサボるわけにもいかない。
それに、目的を達成させるためにはここで速度を緩めることは俺自身が許さない。
「……コーヒーでも買ってくるか」
まだやりたいことはある。今日でなければならないことではないのに、そこまで、あと少し、もう一つだけと手をつけるとさらに進めたくなる。
リフレッシュのために立ち上がったと同時に、社長室の扉がノックされた。
もう社員は誰も残っていないはずだ。
「……どうぞ?」
怪しんで声をかけると、遠慮がちに開いた扉に立っていたのは叶だった。
「あの、まだ、お仕事してますか?」
「なんで? どうした急に」
いきなり現れた叶に、何かあったのかと焦る。
前回会ったのは2週間、いや3週間前だったか。その間に何かあったのではないかと不安が過ぎり、何かあったなら必ず力になろうと意欲が湧く。
「いえ、ご飯を作ってきました」
「ご、はん?」
「はい。また食べてないんじゃないかと思って」
持っていた紙袋の中にはタッパーが詰まっていて、叶の手作りらしいことは分かる。逆の手には近所のコーヒーショップの紙袋もあった。
「コーヒーも買ってきましたよ」
「ありがとう……でも急だな」
「やっぱり迷惑でした?」
「んなことない」
ふっと笑いが漏れる。ゆっくり開いた扉のように遠慮がちな視線を向けてくる叶がどこかよそよそしくも感じるが。
手作りご飯を用意して田舎から出てきてくれたということは、嫌な感じの突撃ではなさそうだ。
ソファに座ってテーブルに並べたご飯はいつもの叶のご飯で、途端にお腹が空いていたことに気づく。
「いただきます」
「はい。たくさん食べてくださいね」
そろそろ敬語も辞めればいいのに、と思ってはいるがそのきっかけを得られずにいる。
ベッドの中でさえ「もう無理です」とか「お願いします」とか言われる。それはそれで懇願されている感じがそそられるのだが。
「で、なんで連絡もなしに?」
「サプラ〜イズ、です」
「サプラ〜イズ?」
「皇さんだって、いきなり会いに来るじゃないですか」
皇さんと呼ぶのも長いな。偽の婚姻だったとは言え、あの時も苗字呼びが止まらなかった。
「ちゃんと休んでますか?」
「休んでる」
「嘘はダメですよ。昨日は何時に帰りましたか?」
「ちゃんと寝てる」
「何時ですか?」
「そんな心配する必要ない」
「何時ですか?」
「……1時半」
「いちじはん!?」
過剰に反応されると思っていた。
あまりにも想像通りで笑ってしまった。
「これ食べたら帰りますよ!」
「分かった」
「帰ったらお風呂に入ってすぐ寝てくださいね」
「もう無理しねぇよ」
いつの間に叶はこんなに俺のことを心配するようになったんだか。悪い気はしないが。
叶の顔を見ただけで疲れなんて吹っ飛んでるのに、それを言っても叶は信じやしねぇ。
「よーし、ちゃんと食べましたね?」
「ごちそうさまでした」
タッパーを片付けていくのを見ていると、満足そうな顔が目に入る。
そんなのさ、俺の方がありがたいのに。
「俺に会いたくなったのか」
「皇さんが、私に会いたいかなと思って」
「くっく……生意気」
顔を近づけると目を閉じてくれるようになったのも、あの時だ。俺が弱りきってたあの日も、こうして手作り料理を用意してくれたんだった。
でも、この日は俺の口に手を当てて止められた。
「何だよ」
「ダメですよ。お疲れなんだから」
お預けなんて、さらに生意気だ。
いじめたい欲が湧いて出る。

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