黙秘する容疑者

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黙秘する容疑者

 目の前の女は取り澄ました顔で無言を貫いている。悪いが、その顔が歪み崩れるのを見るのが俺の趣味なんだ。 「せめて名前くらい教えてくれてもいいんじゃないですか? 風間さん」  ふっと女の泳いでいた視線が止まった。俺としては「名前知ってるじゃないですか!」と突っ込んでもらいたかった。しかし女の目はすぐに泳ぎを再開した。  風間奈々、30歳。ショートボブを少し明るめに染めた、どこにでもいる普通の主婦だ。この女がまさか夫を殺すなんて、当の旦那も想像しなかっただろう。いや、分かっていたのだろうか。  昨日警察に一報が入った。「夫が死んでいる」と。奈々本人が119番通報した。すぐに救急車が駆け付け死亡が確認された。それと同時に警察も急行。その場で第一発見者の奈々に事情を聞いた。仕事から帰ったら居間で夫が倒れていたとのこと。  しかし奈々の様子に違和感があった。夫が苦悶の表情で倒れていても、取り乱すふうもなく立ちすくんでいた。悲しみよりも困惑の顔をしていた。普通だったら泣いたりわめいたりするんじゃないか? 今だってそうだ。夫が亡くなったというのに落ち着き払っている。  怪しいと思った警察は奈々をしょっぴいた。そして調べてみたら、証拠が出てきた。夫殺しの。 「そろそろ自白したらどうだ? 証拠は揃ってるんだぞ」  かれこれ1時間。取調室に入ってから奈々はだんまりを決め込んでいる。最初は物珍しそうにキョロキョロ室内を眺めていたが、今はぼんやりと目を泳がせている。そろそろ何か喋ってもらわなければ。 「1週間前、ネットで青酸カリを買っただろ」  奈々のスマホの履歴から、闇サイトで青酸カリの注文をしていたことは分かっている。そして商品が3日前に自宅に届いていることも確認済みだ。

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