第十話:不器用な数字の歌

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第十話:不器用な数字の歌

 アステリア侯爵家の別邸。かつては華やかだったその場所も、今は手入れの行き届かない庭に雑草が目立ち、建物の端々に寂寥感が漂っていた。  深夜。唯一、窓から細い光が漏れる一室で、マーガレット・フォン・アステリアは羽ペンを走らせていた。 「……あと金貨三〇枚あれば、北の村の機織り機を一新できるのに。そうすれば生産効率が上がり、来期の収益で魔石の輸入枠を増やせる……。でも、私の手元にはもう、これしかない」  彼女が机の上に置いたのは、たった三枚の金貨と、宝石の抜かれた指輪の台座だった。  周囲からは、宝石を買い漁り家計を傾かせた「散財の悪女」と蔑まれている。しかし、実際には家計は一銭の赤字も出していない。彼女が切り詰めたのは自分の生活費であり、買い漁った宝石はすべて領地の魔導結界の維持に消えていた。  だが、その事実を知る者はいない。理解を求める時間すら惜しんで、彼女は領地再建という巨大なパズルに挑み続けていた。 「その計算、一箇所のミスも許されない崖っぷちね?」  突如として背後からかかった声に、マーガレットは肩を跳ね上げた。 「――っ!? 誰!?不法侵入よ!!今すぐ、衛兵を……」 「呼んでも無駄よ。あの子たち、私のお供が配った強いお酒で、今頃は幸せな夢の中だわ。ふふ!贅沢よね。仕事中にお酒を飲んで、それでお給金も出るなんて。まぁ、バレたら一気に酔いも冷めるでしょうけど」  影から現れたのは、夜の闇をそのまま纏ったような黒いドレスの女。  アリシア・フォン・ディンツィア。  死んだはずの「元・悪女」が、マーガレットの帳簿を覗き込み、面白そうに笑みを浮かべていた。

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