3人が本棚に入れています
本棚に追加③
誠の姿をみて、舞香の顔はひきつっていた。
ピンクのリボンがわかりやすく揺れて、動揺を隠せないでいる。
「ま、誠君もよばれてたんだ」
誠に話しかける声もうわずっている。
話しかけられた誠は屈託のない顔で笑う。
「うん、舞香ちゃんもだったんだね。そうだ。プレゼントなににした?」
「あ、あの、ええっと」
口ごもって、しかし舞香のその手はポシェットのポケットをぎゅっと押さえている。肩に掛けているポシェットは、リボンのピンクとお揃いの色。よほどピンクが好きなのだろう。
そんな舞香にニコリと笑い、誠は内緒話をするように舞香の耳元に口を寄せた。わずかに身を引いた舞香の頬がピンク色に染まる。
「あのね、ぼくはね、礼太君のすきなヒーローのハンカチにしたんだよ。舞香ちゃんは?」
「あのね、ええっと、おてがみ」
「さすが舞香ちゃん。おてがみ書けるんだ! すごいなあ」
「そんなこと、ないよお」
うろたえた口ぶり。舞香はぶんぶんと胸の前で手を振って、一生懸命否定をする。
「礼太君、ちゃんと読んでくれるといいね! ぼくも舞香ちゃんのおてがみ読みたいなあ」
礼太にお手紙を渡さなくてはならない。しかしみんなの前で読まれてはならない。舞香は葛藤していた。
「どうしよう。あ! そうだ」
だいたいこういうときに浮かぶ考えはよくないものと決まっている。しかし、舞香はそのときは名案だと思ってしまった。
その名案とは。
『読んで、といわれたら、私自身がそれを読めばいい』
プレゼントで手紙をあげておいて舞香自身でそれを読む。
ピンチをチャンスに変えるにはそれしかない。
舞香は力強く拳を握り、ふっと顔をあげて礼太を見た。
礼太の視線は舞香のほうをずっと向いていたようだった。
「舞香ちゃん」
緊張した声で礼太が舞香に声をかけた。舞香はごくりとつばを飲み込んで、うん、と答える。
「プレゼント、持ってきてくれた? おれ、舞香ちゃんからのプレゼントがほしいんだ。ちょうだい」
プレゼントの催促なんてしていいのかよ。
と礼太は一瞬思ったが、すぐにどうでもよくなった。
ほしいものはほしいといわなくては。
だって礼太自身の誕生日なのだから、少しくらいのわがままはいいはずだ。
プレゼントを──お手紙を──催促されて舞香は観念してポシェットのポケットから封筒を取り出した。
「これ、プレゼントはお手紙なんだよ」
舞香から何をもらえるのだろう、ヒーローの鉛筆とか、ノートだろうか。
などと考えていた礼太は少しだけ眉をひそめた。
が、すぐに満面の笑みを顔に浮かべる。
「ありがとう! 見せてよ!」
舞香の手からひったくるように封筒を──お手紙──を攫い礼太はがさがさと封筒を開いた。
「あ!」
それは舞香の声が届く前の一瞬のできごとだった。
慌てて舞香が手をのばす。
誠が不思議そうにそんなふたりを見つめている。じゃれているのだと思っているにちがいない。
礼太の手から手紙を奪い返して、舞香は昨日一生懸命書いた手紙を自分自身で声に出して読む。
「『おたんじょうびおめでとう』
『これからもあそぼうね』」
それだけ読むと、その手紙をポシェットのポケットにぐいと押し込んだ。
『いちばんだいすきだよ』
この一文だけは、誠の前で読むわけにはいかなかった。
ふうううう、と舞香はため息をつく。そうして礼太に、
「字を間違えちゃったから、は、恥ずかしくて。新しく書いてくるから許してね」
ごめんなさい、とピンクのリボンを揺らして頭をさげる。
礼太はそんな舞香が可愛いと思った。
「うんうん、新しく書いてくれるんだ。そうかあ、ありがとう」
信じることは何も悪くない。つまり、礼太は何もしらなくてそのままでいい、のだ。
舞香がもう一度書くというお手紙からは『いちばんだいすきだよ』の一文が消えていることだろう。
ああよかった。
舞香は胸をなでおろす。
他の子達からのプレゼントはなんだろう、と考える余裕もやっとできた。
ポシェットのポケットに押し込み回収したお手紙を、舞香は少しだけ開いて読んでみる。
『いちばんだいすきだよ』
『これからもあそぼうね』
『おたんじょうびおめでとう』
いちばんだいすきだよ、はさすがに誠の前で読みたくなかった。
「あれ、舞香ちゃん。それってさっき礼太くんに渡して回収したお手紙? 見せて」
誠の声がして、舞香がとっさに手紙を手で押さえる努力をしたのもむなしく。
誠は手紙を声に出して読んだ。
「『いちばんだいすきだよ』
『これからもあそぼうね』
『おたんじょうびおめでとう』
はああ。舞香ちゃんって字が上手なんだねえ」
いちばんだいすきだよ、にはまったく反応もなく、字が書けることにただただ感心、といった誠の様子に、舞香は肩を落とした。
そうして舞香は心に誓った。
誠の誕生日にも絶対に『いちばんだいすきだよ』を書いてみせると。
そのときはもっと特大のピンクのリボンでアピールしてやるんだから、と。
乙女心はピンク色で表現されているのであった。
③ 了

最初のコメントを投稿しよう!