シリアルキラー彼女×7

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道を歩いていて、ふと足が止まった。 小さな子どもを連れたカップルが、信号待ちをしている。子どもは退屈そうに足踏みをし、母親の手をぐいぐい引っ張っていた。父親が苦笑しながらスマホをポケットにしまい、子どもの頭をくしゃりと撫でる。 何の変哲もない光景。 ほんの数秒後には記憶からこぼれ落ちて、二度と思い出されることのない、そんな場面。 それなのに、胸の奥がじんと熱くなった。 昔の俺なら、目にも留めなかっただろう。街の雑踏に溶けた背景のひとつとして、意識の外を通り過ぎていっただけだ。 今は違う。 普通に働いて、誰かと恋をして、喧嘩して、仲直りして、やがて結婚して、子どもを作る。休日には公園に出かけて、信号待ちの間に子どもの髪を撫でる。 それがどれほど困難で、どれほど遠い道のりで、どれほど尊いことか。理解できる年齢になってしまった。 平凡な人生は、才能だ。 いや、偉業だ。 誰にでもできることじゃない。少なくとも、俺にはずっとできなかった。 隣を歩くエナコが、俺の視線の先を不思議そうに追って、小さく首をかしげた。 「どうしたの?」 本当に、どこにでもいそうな女の子だった。 派手でもなければ、影が薄いわけでもない。少し気が利いて、少し臆病で、とびきり優しい。笑うと目が細くなって、怒ると唇がほんの少しだけ尖る。そういう、ささやかな癖のひとつひとつが、俺には眩しかった。 平凡であるということが、どれだけ尊いことか。 「いや……」 言いかけて、やめた。こんなことを言葉にしたら、きっと重たすぎる。 だから代わりに、軽く笑ってみせた。 「俺たち、モブキャラだなって」 エナコは一瞬きょとんとした。それから、わざとらしく頬を膨らませて、俺の肩を軽く叩く。 「失礼だなあ。わたし、ちゃんと主役してるつもりなんだけど」 その反応まで含めて、完璧だった。 予測できる。安心できる。テンプレートで、だからこそ愛おしい。 ――ああ、これだ。 俺はこれが欲しかったんだ。 普通の彼女。 普通の結婚。 普通の家庭。 波乱のない、穏やかな日々。朝起きたら隣に誰かがいて、「いってらっしゃい」と見送られて、「ただいま」と言って帰ってくる。そんな当たり前を淡々と積み重ねていく人生。 三十歳の誕生日までに結婚する。 子どもの頃から、ぼんやりと描いてきた人生設計。それが、ようやく現実になろうとしていた。 ポケットの中で、スマホが震える。 取り出して画面を見る。見知らぬ電話番号からのショートメール。 「いまからいくね」 ひらがな七文字。 句読点もない、簡素なメッセージ。 ショートメールを使うような知り合いに心当たりはない。今どき、こんな連絡手段を使う人間がいるだろうか。迷惑メールだ。そう判断して、心の片隅に追いやろうとした。 だが、その七文字は胸のうちに妙な粘つきを残した。 「いまからいくね」 スマホをポケットにしまう。 大丈夫だ。きっと、なんでもない。 俺もエナコの手を取って、歩き出した。 さっきの家族みたいになれる。きっとなれる。 そう信じていた。

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