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本棚に追加「シリコンかよ」
イカリングの食感に怒りを覚えた。
「異物混入すか?」
店員を呼ぼうとタブレットに手を伸ばす蛍(ほたる)を手で制する。
「頼んだ俺が悪かったんだ」
若い店員がビールジョッキを座敷席へ運んで行く。大学生グループのノリに店員が応えていた。
「空元気は生きていくのに一番必要だからな」
「何すかそれ」
蛍が焦げ気味のイカリングを箸でつつく。
「いや、何でもない」
剥がれた衣の隙間から見えたイカが、これから運ぶ荷物を思い出させた。
「剣崎先輩、イカ刺しあるっすよ」
イカ刺しは画像処理したようにわざとらしい光を放っていた。
「やめとくよ」
蛍が頼んだカニクリームコロッケを無造作に頬張ると、内部が冷たかった。
今日はとことんついていないらしい。
「これゴムっすね」
蛍もイカフライを頬張って顔をしかめた。
「そろそろ時間だ」
「ハイっす」
二人して、ウーロン茶を飲み干して席を立った。
剣崎運送とロゴの入った軽ワゴンに乗り込むと、俺はファイルを読み上げた。
「依頼人は一人暮らしの二十代女性――東京都M市――メゾン・デ・フルール205号室に集荷、その後、しかるべく荷物を遺棄し、依頼人をNPO法人ニゲラの宿泊施設に届けるまでが今日の仕事だ」
「それで特別手当が出るんすね。だったら、もっと美味いもん食べたかったっすよ」
「無事に終わったらな」
時計の針は午後八時ちょうどを指していた。
「絶対すよ。俺、美味いイカ刺し食いたいっすよ」
俺が函館出身で、子供の頃に両親と食堂で食べた銀色に光る真イカの刺身がどれほど美味かったか、酔った勢いで話したのを覚えているらしい。
「分かったよ」
都内でも美味いイカ刺しを出す店はあるだろう。だが、俺が食べたいのはそんな高級店のものじゃない。
「行っちゃいましょう!」
「運転するのは俺だけどな」
助手席で蛍がヒヒっと笑った。

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