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本棚に追加火刑の果てに
熱い。苦しい。痛い。
わたしは、業火にのまれて今まさに息絶えようとしていた。
ことの発端は、一ヶ月ほど前に婚約者、いや元婚約者のフィリベルトの父、ミュラー伯爵が突然亡くなったことがきっかけだった。
伯爵の死因は心臓発作。それまで健康そのもので目立った不調もなかったのに、発作が起こるのはおかしいとフィリベルトは騒ぎたてた。医者はこういうケースも有り得ると言っていたが、彼は聞く耳を持たなかった。やがて、父親の心臓発作は婚約者のわたしが魔術を使って起こしたものだ、わたしが父殺しの犯人だと突拍子もない話をしはじめたのだった。
当時のわたしはそんな話を気にしなかった、というより、気にしないようにしていた。フィリベルトは父親を失ったショックで一時的に錯乱しており――それでも言っていいことと悪いことがあるけれど――時が経てば落ち着きを取り戻してくれる、そう思っていたから。
それが間違いだった。
数日後、アーベライン邸に警察が来て、殺人罪でわたしが逮捕されてしまったのだ。
わたしはやっていない。将来、義理の父になるはずの、優しい男性を殺したりしない。
けれども、家族以外は誰も、わたしの言う事を信じてくれなかった。
呪殺の動機も明確な証拠も何もなかったのに、裁判はフィリベルトの証言だけで進められ、わたしは火刑を言い渡された。抗議した父と兄も拘束され、今はどこにいるのかもわからない。
視界の右端に、かつての婚約者フィリベルトの姿がうつる。
あれが邪悪な魔女だと言わんばかりにこちらを指を差し、美しい顔に嘲笑を浮かべる元婚約者。
その口元はこう言っている。ざまあみろ、お前の金はすべて僕のものだ、と。
その光景を目にした瞬間、わたしは直感で理解した。
わたしが死ぬように仕組んだのは、フィリベルトだ。金欲しさに、わたしを魔女として告発し財産を没収させたに違いない。なぜなら、魔女を告発した者は、報酬として魔女の所有財産を自分のものにできるのだから。
許さない。許さない。許すものか。絶対に。
苦痛と絶望の果て、完全に意識がなくなる寸前、燃えさかる炎の音に混じってフィリベルトの声が聞こえた気がした。
「見たか! これが天使……だ!」

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