「これを愛と呼びたかった。」

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僕達は「愛」なんてわからない。 でも今日も2人で。 僕と君だけで この星空の下で踊ろう。 …「愛」なんて 僕達は知らないままでいいんだ。 僕は夜に家を抜け出して この広い公園に逃げていた。 日中とは違う、 静かで虫の音だけが 聞こえるこの空間が 僕は好きだった。 滑り台の下で寝そべり 僕は星空を見た。 その星空は 僕の暗い心を ピカピカと照らしてくれた。 流れ星が流れる。 「あ、流れ星だ。」 誰かの声で、 僕は起き上がり周りを見た。 「上だよ、上。」 そう言われ、上を見ると そこには同い年くらいの女の子がいた。 顔は暗くてあまり見えないが その子が女の子なのはわかった。 ひらひらと揺れる 白いワンピースに 肩までの髪型の女の子。 「流れ星、見た?」 彼女はそういうと滑り台を滑って僕にぶつかった。 「みた、けど。 こんな深夜に女の子1人って危ないよ。」 僕は滑り台から離れ、 彼女と距離を置いた。 「それをいうなら君だって危ないよ?」 彼女の顔が月明かりに照らされ 少しずつ見えてくる。 …僕はその顔を知っていた。 知っていたけど、 それは言わなかった。 「この時間はね、 なんでもできる気がするの。 君にはわかる?」 彼女は僕の前に立つと 白いワンピースをひらひらとさせて言った。 「…わかるよ。 僕はこの時間が すごく好きだからね。」 彼女はクスクス笑うと、 まっすぐブランコへ向かった。 僕も彼女の後を追う。 ブランコに立ち彼女は グイグイ立ち漕ぎをしてブランコを揺らした。 「そんなこいだら危ないよ。」 僕は横のブランコに座ると 優しく漕いだ。 「言ったでしょ。 今は無敵モードなの!」 彼女はグングンと漕ぐのをやめない。 …見えないようにしていた 彼女の足と手のあざが 月明かりに照らされて見えてしまった。 「私ね、いつか飛ぶの。 鳥みたいに自由に飛んであの星空まで行くの!」 彼女はブランコを漕ぎながら 言った。 僕は「そうなんだ」としか 言えなかった。 ブランコを漕ぎながら 僕は少し考えた。 何か彼女にしてやりたかったからだ。 ブランコを、降りて 僕は彼女に手を伸ばした。 「一緒にダンスの練習しない?」 恥ずかしかったが、 それでも僕は彼女と踊りたかった。 学校に来ない彼女が、 一目惚れした彼女が。 今僕の目の前にいる。 彼女は、くすっと笑うと 僕の手をとった。 「あっちで踊ろう!」 彼女は僕の手を握ると 広く月明かりが1番照らされるところまで歩いた。 「教えてよ、なおとくん。」 彼女が笑った。 胸がきゅっとなった。 顔が赤くなりはじめる。 僕は彼女の手を支えるように 一歩一歩踊り出す。 彼女も、僕に合わせるように 一歩一歩僕の足に合わせる。 「ふふっ なんかドキドキしちゃうね」 白いワンピースが ひらひらと揺れる。 月が雲に隠れ 時間というものを僕たちに 認識させた。 彼女の手が少しずつ震える。 「…また明日、この時間。 一緒に踊ろうよ。」 僕は踊りながら彼女にいう。 彼女の 震えが少しずつ弱まり始めた。 「うん! 明日この時間、また踊ろう!」 彼女は僕の手をスッと離すと 静かに暗闇の中へと消えていった。 僕は静かな余韻に浸りながら 静まった家へと帰っていった。 次の日、学校に行くが 当然彼女はこない。 理由も先生は語らない。 もう僕達のクラスには 彼女、「森下 あやめ」という女の子はいない事になっていた。 ホコリの被った机だけが 彼女という存在を表していた。 夜、家族が寝静まった頃 また僕は家を抜け出した。 昨日と同様 満遍の星空が僕の心を照らした。 「あっなおとくん」 先に来ていたのか公園に彼女はいた。 彼女は僕の手を掴むと 昨日と同様滑り台、ブランコ、ダンスをした。 僕は踊る彼女の手を取る。 月明かりが照らす彼女が 愛おしかった。 腕にあるあざが1つ増えていた事を僕は聞かなかった。 彼女のキラキラした顔を見れただけでよかったのだ。 雲が月を隠すと彼女は暗闇へ消えていく。 それでもよかった。 また次の日も、次の日も 彼女と僕は踊った。 ある日も僕と彼女は踊っていた。 ふと彼女がいう。 「ねえ、愛ってなんだと思う?」 彼女の顔は見れなかった。 「愛なんて僕にはわからないや。」 僕はいう。 少しの間があって 彼女は口を開いた。 「これが愛ならいいのに。」 その言葉で僕は彼女の顔を見てしまった。 彼女の瞳には たくさんの星屑があって 目から流れ星が流れたように キラキラとした雫が垂れた。 彼女の言葉に 僕は感情を飲み込んだ。 今の彼女に僕はなんて 話しかければいいのだろうか。 「これが愛ならいいのに。」なんて 僕だって同じ事を、想っていた。 けど、わからないんだ。 「愛」なんてものが。 僕の沈黙をよそに、 彼女は口を開く。 「今日で最後なの。 君とこうやって踊れるの。」 彼女の言葉に僕は 喉に詰まっていた言葉を 全部飲み込んでしまった。 動きが止まる。 ダンスが終わる。 「私ね、遠くに行っちゃうの。 ママの新しいカレシって人のところに行くんだ。 きっとママは幸せになれないけど それでも行くんだよ。」 僕は黙る。 言葉を発してはいけない。 「愛って本当にあるのかな?って ずっと思ってたの。 でもさ、こうやって君と 踊れるこの時間が すっごく幸せだって気づいたの。」 それは僕だって同じ。 同じなのに。 言葉が出ない。 彼女を、繋ぎ止めておけない。 「ねぇ少しだけ ぎゅってしていい?」 彼女の瞳から ぽたぽたと星屑が落ちる。 僕は頷く、言葉を喉にしまって。 彼女は嬉しそうに微笑むと 僕を抱きしめた。 ドクンドクンと自分の心臓の音か 彼女の心臓の音かが聞こえてきた。 震えた彼女の背中を 僕は静かに抱きしめた。 小さい背中を撫でて 彼女の体温を感じた。 ぐすんぐすんと泣く声を 僕は黙って聴くことしかできなかった。 …この時間が続けばいいのにと 彼女の体温を感じながら思った。 そっと離れる彼女の顔には もう星屑も瞳の中の星空も 消えていた。 「じゃあね」 白いワンピースをひらひらとさせて 彼女は暗闇へ戻っていった。 僕は月明かりに照らされて ただじっとその場を眺めているしかできなかった。 次の日、彼女が転校したと先生が報告した。 埃被った机はいつしか無くなっていた。 夜、彼女は来ないと わかっていながらも僕は公園へ 向かった。 彼女と出会った滑り台に横たわる。 星空を、眺める。 彼女の声、姿を思い出す。 もう来ない彼女を想いながら 僕は深く息を吸った。 僕は「愛」なんて知らない。 でも君と2人 星空の下で踊ったあの時間を 僕は「愛」と呼びたい。

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