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『末期だね俺も。まぁ神子姫に協力してもらってある程度分かってたから理由はそれじゃないんだけど』
『?』
意味が分からないと首を傾げてヒノエを見つめる彼の膝の上にはきちんと渡された篭が置いてある。
上を見上げて見えた知らない間に変わった空の色は知らない間に成長していた自分を見つめる瞳と同じ色をしていた。
『またよそ事かい?もう少し俺だけを見てくれたりしないの?』
半刻程前にされたようにまた覗き込まれた視界いっぱいに映し込まれた顔が近づいて、今度は逃げ切れずに再び唇が重なった。
『俺に同じ手は通じないよ』
『随分と腕を上げましたね』
ふいを付いたつもりだったのにどこかまだ余裕な弁慶に苦笑いと共に酷く挑発的な笑みを見せた。
その燃えているようなヒノエの真紅の瞳に映し出される色素の薄い肌や髪の全てが愛しくて別れた後も切なく待っていたあの日々を思い出した。
『待つ恋ってのも悪くないね』
『待つ恋しかした事ない癖に』
『否定はしないよ。そう言うんだからもちろん初恋は叶えてくれるんだろ?』
返事を曖昧にするようであればもう一度唇を重ねてやろうかと考えていた頭に柔らかな感触。思わず額に手を当てて確かめているといつの間にか自分の膝に跨がっていた弁慶に手を叩かれた。
『随分と待たせたようですし』
そう言った彼の瞳は空を仰いでいて見えたのは白く綺麗な首筋。
本当は無理矢理上から顔を覗く事等たやすいのだけれど唇を重ねた時同様の顔をしているのが安易に予想できて止める。
『夕日は時に疎ましいね…』
「可愛い照れ顔を隠してしまう」という言葉は飲み込んだけれど彼には伝わっているだろう。
『…』
『でも…悪くない』
案の定無言を返してきた弁慶の腰を強く抱きしめながら胸に顔を埋める。
髪を撫でる手の優しさや温もりは幼きあの時と同じ。
『ヒノエ…』
柔らかな唇から紡がれる言葉も今は同様に柔らかかった。
『ようやく手に入れたんだ。覚悟しなよ』
そう視線だけを向けて言いやった。
驚いた様子を見せること数秒。そっぽを向いてしまった彼は夕日で自分と同じ色をしていた。そんなくだらない事に幸せを感じるのならばやはり待つ恋も悪くないのかもしれない。
ヒノエは自らと同じ色に染められる白く綺麗な彼がいつも誰にでも向ける柔らかな笑顔と同じそれを浮かべもう一度弁慶を抱きしめた。
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