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本棚に追加 暑さが遠のき、寒さを知り、暖かさが舞い込む。そしてまた暑くなる。
結婚して三か月が過ぎようとしていたとき、僕はふと妻で有る彼女を食事に誘った。
「こんな店落ち着かない」
僕たちには不相応なところだが、それでもかまわないと思っていた。
「たまにはこんなところも良いだろ? 確かに落ち着きはしないけど」
「なんか私に言いたいことがあるの?」
彼女は僕のことを良くわかっている。多分お見通なんだろう。だけど僕は嘘をつく。
「知らないな。今日は僕たちの昔話をしようと思っただけだよ」
「昔話って、私たちはまだ結婚して三か月、付き合ってやっと一年だよ」
「うん。その一年をなつかしもうと思ったんだよ」
言葉の通り、僕たちは夫婦にしてはその付き合いがあまりない。それは世間では素敵なことだって言われても、やはり当事者としては気になるところでもあった。
「一年前は自分が結婚してるなんて思ってなかった」
「僕は、望んでいたけど、そうだね。僕もまさか今の自分があるなんて思ってなかったよ」
別に結婚を急いだ訳じゃない。この短い期間は二人が望んだことだった。
僕と彼女の目の前には綺麗な料理が並んでいた。
「確か、告白を受けたのは月夜だったね」
「そう。まだ知り合ってそんなに時間のたってない頃だった」
あくまで思い出話にしたいので過去のことなんて思わない。ただ彼女との会話を楽しむ。
「驚いたんだよ。まさか貴方から告白されるなんて思ってもなかったから」
「そりゃあ、僕だって思ってもなかった。こんな綺麗な人なんて遠くで眺めているだけの存在だと思っていたから。それでも好きになって、その時、結婚したいとも思っていたから、一縷の望みにかけたんだ」
「勝算は無かったの?」
彼女が目の前で少し笑いながら料理を口に運ぶ。
とてもおいしそうに食べて彼女の目が細くなった。
「そうだね。僕は振られるものだと思っていた。だって、あんなに可愛い人を知らないから」
その時ゴホゴホと少し彼女が咽て、水を飲んだ。
「あまり揶揄わないでよ。料理がもったいなくなる」
微笑みがあって、僕もついその笑顔につられて笑っていた。
「揶揄ってはないよ。本当に可愛いくて、素敵で、とっても良い女の子だった」
「過去形?」
言葉尻を捉えて彼女が少し不服そうに僕を見ていた。
「一応、昔話だからね」
少し笑ってみると「なるほど」と彼女は納得しながらも「真意は聞くからね」と置いた。
「まあ、そんな素敵な人と、運良くもロマンチックな雰囲気になった」
「そうだったね。あの日は満月。高い空に輝く月が浮んでた」
彼女が昔のことを思い出していた。
昔と言えど、まだ一年だけど僕たちにとっては十分に昔だ。
「僕はあの時月を見上げると、とても綺麗だと思ったんだ。そして」
「そして? チャンスだと思ったの?」
ちょっと話を楽しくしようと思ったのか、彼女は水とは違うアルコール分のあるグラスを持って微笑んでいた。
「チャンスだなんて思わなかったよ。元々僕にチャンスなんて幸運はなかっただろうから」
「じゃあ、どうして告白したの?」
「それはね」
彼女がグラスを置いて、僕の言葉に耳を傾けた。
「想いだけでも伝えないと、損だと思った」
「損?」
とても不思議そうな顔が僕の向かい側にはあった。
「なんとなくね。こんなに素敵な人なんだから、付き合いたい。ずっと一緒に居たいと思っていた。だけど、告白するだけの権利が無いとも思っていたんだ」
「それは勝手な思い込みでしょ?」
「そうだったのかもね。だけど、あの時の月を見上げた時に、告白してみたいと思ったんだ」
僕のこの言葉を聞いた彼女は椅子の背もたれに身体を預けると、一度置いたグラスを持ってお酒を飲んだ。
「やっぱりチャンスだと思ったんでしょ? ロマンチックだったからね。機会が巡ってきたと。どう? 白状しなさい」
片手にグラスを持ったまんまで僕の方に顔を近付け聞いてくる。その表情はとても楽しそうだった。
「あくまで勝ちの要因なんてこれっぽっちも無かったんだ」
呟くような言葉を落としていた。
「本当かなー?」
「本当だよ。僕は単純に君が美しく思えた。だから、思ったことを並べただけだよ」
「そっかもね。だから、正直な貴方の言葉に私は惹かれたのかも」
二人で顔を見合わせて笑う。

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