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本棚に追加第一階層【ララギル】
神学者ディオニュシオスによる【天使の九階級】の定義だと、第三階層──よーするに下っ端天使のアクエルは、人間界の元【魔王城】で昼寝をしていた。
魔王サタナギルが使っていた、豪奢な天蓋付きベッドの寝具は最高級品。掃除していない部分は【神力】を悪用して洗濯した。だから、掛け布団もシーツもお天道様のいい匂いがした。
伝説の勇者の出現により、魔王が倒されたことで魔物はいなくなり、広大な【魔王城】には誰もいない。静かな住環境を好むアクエルには、好都合だった。土地が呪われている影響で、最高神が居場所を把握できないこともいい。
アクエルは同僚のうっかり天使・ベルフィムのベルトをすり替えておき、自分の【神力】を込めていたから、最高神からは、アクエルがベルフィムと一緒にいるように把握されているはずだった。
「こんな昼寝日和の日に、仕事をすること自体が、俺に言わせれば【罪】。しかも【重罪】だろ。というわけで、おやすみなさ~い」
アクエルはそう呟くと、大きく欠伸をし、バタンと柔らか枕に頭を落とした。本来、天使とは欲望に乏しく「サボる」という発想も持たない、面白みがない存在なのだが、アクエルは例外だった。
理由は、彼が半神半人だからである。最高神が人間の美女にハマってしまい、その結果として生まれたのが彼であった。そうした理由で、本来、天使には存在しない性別も持っているし、怠惰とか、嘘とか、人間由来の性質をふんだんに備えていた。何せ、母は詐欺師だったので。
「アクちゃん! こんなところでサボったら、めっ、ですよ!」
蠱惑的な声が、耳元に響いた。声質はそうなのだが、ちっとも色気がない声だ。突然、耳元に息を吹きかけられて、アクエルは飛び上がった。天使としての飛行能力が無駄に働き、豪奢な天蓋に思い切り頭をぶつける。
「いってぇ! うわっ」
落下したアクエルは柔らかいものに受け止められた。いい匂いがして、頭がクラクラする。目を開けると、両耳の上に角を生やした、ちょっと釣り目の美少女が、頭のすぐ近くで彼を見下ろして、頬を膨らましていた。
「ララエル! ……じゃなかった、ララギルっ」
アクエルは素っ頓狂な声を上げた。落下した彼は、美少女──ララギルの膝の上に落ちていた。ゴスロリ的な衣装だが、下はミニスカートであり、アクエルは生々しい感触に慌てふためいた。
「ちゃんとララはアクちゃんを受け止めました! 偉かろうでしょ?」
ララギルは笑顔になった。膝枕されつつ、よしよしされる。
アクエルは慌てて、体を起こした。彼にもほんのちょっとだけど、天使としての尊厳がある。悪魔っ娘に介抱されていることに、万が一最高神が気づいたら、天界に居場所がなくなると思った。
「おっお前っ、なんでここに!」
「魔王のおじさまの残り【魔力】を吸って、頑張って悪いことをするためですよっ」
ララギルは得意げに、やや寂しい胸を張った。御年666歳のはずだが、ちっとも成長していないと、アクエルは思う。
「おまっ、いちおー天使の俺なんかに、関わったらダメだろうが!」
「幼なじみ同士なのに……そんな固いこと言われても……ねっ」
自然に上目遣いでウィンクするララギルに、アクエルは喚いた。
「固いことを言うのが、俺の仕事だっ!」
「……ええっ!? アクちゃん仕事する気あったんですか!」
心底驚いた顔をするララギル。
「うんうん。その方がいいですよ。でないと、ララみたいに神様に堕天させられて、悪魔になっちゃいますからね。でもでもっ、アクギルになったら、ちょっとカッコいいですねっ! ……って、ダメダメっ。真面目に、ですよっ」
天使が悪魔に堕天すると「エル」が「ギル」に代わる。ララギルはそのことを言っているのだ。
(くそっ、天使だった時と、こいつの性格は何も変わってねぇ。何一つだ)
「真面目さを天使に説く、悪魔がどこにおるかぁっ!」
「どこにって……ここに、いますよぉ……」
途方に暮れたように、縮こまってララギルは言った。それが小動物っぽくて、アクエルは無害な生き物に危害を加えているような罪悪感を覚えた。
そもそも、アクエルには、ララギルに罪悪感を抱く理由があった。
「どこにって……ここに、いますよぉ……」
途方に暮れたように、縮こまってララギルは言った。それが小動物っぽくて、アクエルは無害な生き物に危害を加えているような罪悪感を覚えた。
そもそも、アクエルには、ララギルに罪悪感を抱く理由があった。

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