駅から自宅へ帰る途中、街灯の一つもない暗い道がある。
自動車はとても入れない狭い道で、距離はおよそ百メートル。両脇は近くの工場の資材置き場なので、日が暮れたらほぼ真っ暗だ。
でも近隣の住民で、ここに街灯を設置してほしいと望む者は誰もいない。どころか、バイクや自転車でこの道を通る者は、差しかかった瞬間にライトを消す程だ。
みんな知っている。ここには『決して見てはいけないもの』がいることを。
明かりをつけるな。目を凝らすな。可能な限り周囲には意識を向けず、乗り物で通っているのでないならば走ることなく、だが急ぎ足で通り抜けろ。
それが暗黙の了解になっている道だけれど、通らない訳にはいかない。誰も通らないようになれば、この道の『何か』は別の道に移るから。そしてここ以外『何か』を見ずにすむ暗い道は、この近くには存在していないから。
誰も口にしないけれど、みんなが掟のようにそれを知っている道。昼は普通に通れるけれど、夜は、覚悟と共に通る道。
仕事があるから、明るい時間には家に帰れない。そんな俺は毎日のように、およそ百メートルの距離を心を無にして通り去る。
立ち止まるな。息も潜めろ。それでも確かにここを通る人間がいることを示しながら、今夜もこの道を歩き抜ける。
暗い道…完
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