鬼のいる間

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 東京の家賃は馬鹿みたいに高い。ワンルームマンションで、どれだけ駅から離れていてもなかなか五万を切ることは難しい。下を見れば、ボロアパートなら二万とか三万で入れる家もあるだろうが、住めば都、なんて言葉を信じていない。  仕送りを酒や煙草、麻雀にパチンコでスってしまった俺は、当然家賃なんて払えやしない。  そこで地元が一緒の腐れ縁・パシリの小橋(こばし)の紹介で、「鬼百合荘(おにゆりそう)」っていう寮? 違うか?  とにかく一軒家で他人同士が共同生活を送る、みたいな家に住むことになった。小橋曰く、最近じゃ「シェアハウス」みたいに言うらしい。外国人留学生の間じゃ常識なんだと。  鬼百合荘は、見た目は古めかしい洋館だが、中はリフォームしたばかりなのか、割ときちんとしている。ただし、きれいとは言い難い。住んでいるのが男子大学生ばかりで、管理人にあたる人間が同居していない、いわば無法地帯のため、台所や洗面所、風呂場は壊滅的だった。  まぁ俺は、無法者の一員である自覚があるので、特に気にならない。すでに汚れているんだから、俺がどんな使い方をしたって一緒だろうよ。 「川谷(かわたに)くん。ワタナベさんからは聞いていると思うんだけど」  ワタナベ? 誰だ? ……ああ、契約のときにあれこれうるさかった奴か。 「聞いてるって、何がだよ」  小橋は溜息をつくのをぐっと耐えた。判断が少し遅かったな。俺はお前ごときに呆れられるほど、落ちぶれちゃいないんだよ。  調子乗んなよ、と、ごつ、と頭をグーで殴る。威嚇程度の可愛いもんだが、小橋は情けない顔をしていた。こいつは小学生の頃からこうで、ちょっとからかっただけで泣きそうなのに、涙は決して流れないから、泣いてない判定をされて、さらに痛い目に遭う。 「……鬼百合荘の、ルールのこと」  ルール? ああ、なんか言ってたっけな。  小橋は神棚を指さした。 「あそこに、少なくとも一ヶ月に一回は、自分の作品をお供えするんだ」 「はぁ? 作品ってなんだよ」 「なんでもいいよ。絵でも漫画でも小説でも詩でも、自分で作った曲の楽譜でも」  何のためにそんなことをするのか。ご利益があるのか。ああ、小橋って昔から、首のない女の絵とか、不気味に笑う子どもの絵とか、そういうのばっかり描いてたもんな。キモいオタクには、なんかいいことありますよー、ってか? 「くっだんねえ」 「あっ、川谷くん。ここに長く住みたいなら、本当に守った方がいいよ?」  うるせぇよ、とぶん殴った。小橋の手から、紙が落ちる。相変わらずキショ。暗闇の中に目玉がぎょろりとこっちを向いている、下手な絵が描かれている。  俺はその裏側に、その辺に落ちていたサインペンででっかくうんこの絵を一筆書きにして、神棚の方に放り投げてやった。 「これでいいんだろ?」 「……罰当たりな」  そんな呟きが聞こえた気がするが、もう俺はどうでもよかった。格安で住める場所を確保できたら、あんな奴とは付き合っていられないのだ。もっと調子がよくてノリが合う奴か、付き合うことでメリットのある初とお近づきになりたいものだ。このぐちゃぐちゃの家には、後者はいないだろうが、前者は多そうだ。

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