25人が本棚に入れています
本棚に追加3.書きたくない
「なんですか」
小声で返事をした桜子に先生はなぜかしゃがむように言い、自分も廊下の片隅で膝を突いた。
お互いそうしたせいで顔の位置が近くなる。
息苦しさを覚えた桜子に、木田先生は低い声で問いかけてきた。
「みんなで仲良くしようって紙にな、大月さんの名前ないんだけど。なんで書かない?」
桜子はとっさに息を呑む。
言ってしまおうか、と思った。無視されていること、馬鹿にされていること、全部を。
先生があの紙を貼りだした理由はこうして問題を浮き彫りにして助けてくれようとするためかもしれない。だとしたら頼ってもいいのではないのか。
だがそこまで考えて思いとどまる。
真由美のことを先生に告げた後、先生はどうするだろう? 真由美を叱るだろうか。そうしたら真由美はどう思う?
桜子が密告したと逆恨みされないだろうか。
数瞬の間にさまざまなことが頭の中を過った。
だんまりを決め込めるならそうしたい。けれど先生は逃げることを許さぬ顔でこちらを見つめてくる。
覚悟を決め、桜子はぼそりと返した。
「クラスで、どうしても仲良くしたくない子がいるんです」
桜子の答えを聞き、先生は黙り込んだ。
この後続くのは、誰とだ? かもしれない。そう訊かれたら言ってもいいだろうか。
だが、聞こえてきたのは予想とは全く違う言葉だった。
「でもな、大月さん。それ、逆に考えたらどうだ? みんなの方から大月桜子と仲良くしたくないってそう思われたらどう思うんだ? 嫌な気持ちしないのか?」

最初のコメントを投稿しよう!