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本棚に追加 有名なサッカークラブ。そこには若人たちが毎日切磋琢磨していた。
そんなところに「鬼」と呼ばれる人間がいる。いや、このチームは女子サッカーなので「鬼姫」と呼ばれていた。
彼女は高校卒業からプロリーグで戦い、強く有名な今のチームに所属している。もちろんそれは才能を請われてのことだった。
「今はもう昔の話だよ」
チームの若手選手が話していた。
「エースストライカーだったのはもう過去の話。今じゃオバサンじゃないか」
そんなことを言うのは少数ではなかった。
鬼姫と呼ばれた選手も30代半ばになっていた。
10代から活躍し、20代の頃には日本のエースと称された彼女もこんな言われ方をするようになってしまっていた。
「最近の若い子って怖いねー」
「あたしらだってあんなんじゃなかった?」
鬼姫に話しかけたのは同年代より少し下の選手。彼女も十分すぎる才能でチームと日本代表を背負ってきた人間だ。
「私はもっとおしとやかだったよ」
「あたしは、あんなだったかも。負けん気は強かったから」
「今でも負けん気は強いでしょ?」
ランニングをしながらの会話。その時にも鬼姫のペースはあがっている。
まだまだ寒い日が続く。吐く息は白く、運動するのなんて億劫になってしまうくらい。それなのにこのピッチには活気があった。
一流のクラブチームなのだからそれは当然でもあるが、ベテラン二人がそれを引っ張っていた。
「私はもう限界だな」
ぽつりと呟いたランニング相手の言葉に鬼姫が歩みを止めた。
「もしかして、引退するの?」
「もちっと続けたいけど、チームの迷惑にもなるだろうし。今シーズンで辞めるよ」
数歩先から戦友の笑顔がある。その顔をみていた筈なのに輪郭が歪んでしまう。
「鬼なんて呼ばれてんのに泣くなよ!」
戦友が鬼姫の手を取ってまた走り始めた。
「このチームには貴方が必要。運営側から引退を勧められたならあたしも話に加わるから」
「運営は文句の一つもない。私ら、そのくらい貢献してるからね。だけど、引き際を考えないと。もうしんどいんだよ」
それは体力の問題。それは鬼姫にだってわかっていた。
若い頃はどんどんサッカーが上達するのがわかるくらいだった。それなのに今は現状を留めるので必死になっている。日々サッカーは進化をして、やがて自分達が古いものになるのも理解はしていた。
「諦めるの?」
「諦めなきゃならんのだよ」
「辞めてほしくない」
「そんな、一番はじめに話した人に言われたら心惹かれるなー」
広いピッチの外周を回りながら話をしている。さっきまで聞こえていた若い子たちの言葉も遠くなり、自分たちの会話が届くこともない。
「じゃあ、運営にもまだ話してないんだよね?」
「そりゃあ鬼姫に話してから出ないと」
「ならまだ時間はある」
鬼姫の目がキラリと閃いた。

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