3714人が本棚に入れています
本棚に追加「え……?」
思わず、聞き返す。
一瞬、思考が止まる。
(……酔ってない?)
言われた意味が、すぐには理解できない。
遅れて、じわじわと染みてきて。
「……そんな、はず」
小さく、否定しかける。
けれど。
その先の言葉が、続かなかった。
「じゃあ……何で」
思わず、こぼれる。
(酔った勢いじゃないなら……?)
口に出したあとで、はっとする。
視線を上げると、
小野寺課長はわずかに頬杖をついていた。
そのまま、こちらを見ている。
ほんの少しだけ、口元が緩む。
「……知りたい?」
低く、静かな声だった。
視線が、逸らせない。
「………」
少しだけ迷って、ゆっくりと頷いた。
ーーひとつ、息をのむ。
聞いたら、もう戻れない気がして。
それでも、目を逸らすことはできなかった。
小野寺課長が、少しだけこちらに身を寄せる。
距離がわずかに近づき、思わず息が止まる。
そしてーー
「好きだから」
その一言が、まっすぐ落ちた。
一瞬、呼吸が止まる。
「……好き…?」
瞬きを忘れたまま、目を開く。
何か言おうとして、言葉が出てこない。
「……っ」
遅れて。
顔に熱が集まり、
一気に血が上がるのが分かった。
「……そんな」
かすれた声が、こぼれる。
そのまま、逃げるように視線を落とす。
「俺は、本気だから」
変わらない声。
それだけで、逃げ場がなくなる。
「……っ」
心臓が、うるさい。
「……はは。顔、真っ赤」
くすっと、低く笑う気配。
余裕のあるその声音が、余計に落ち着かない。
「わ、わたしは……」
言わなきゃ……そう思うのに。
膝の上で、手をぎゅっと握りしめる。
「その気持ちにーー」
「佐倉」
低く、呼び止められる。
それ以上何も言えなくなり、
一瞬、空気が止まったような気がした。
「まだ、大橋に未練あるのも………知ってる」
わずかに間を置いて、
小野寺課長は静かに言い切った。
「……え?」
思わず、顔を上げる。
言葉が、出てこない。
(大橋くん……?)
心臓が、ひとつ大きく跳ねる。
(なんで……知ってるの?)
「……もう、終わってます」
やっと絞り出した声は、
思っていたよりも小さかった。
「未練なんて……ありません」
自分に言い聞かせるように、口にする。
そう言わなきゃいけない気がして。
それでもーー
その先の言葉が、出てこない。
「そうか」
小野寺課長は、あっさりと返す。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、そのままこちらを見ている。
ーー逃げ場を残さないみたいに。
「……じゃあ」
ほんのわずかに、間が落ちる。
「問題ないな」
余裕のある、読めない声だった。

最初のコメントを投稿しよう!