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太陽が沈み、月の光が地上を蒼白く包む。
満月の今宵、例の二人組はとある建物の物陰に隠れていた。
「本当に此処にくるのか?」
「…昼間何の為に歩き回ったと思ってるんですか?」
零の問いに帰ってきたのはどこか不機嫌な架夜の一言。
「この町で今一番魔力が高い人物がいるのは此処です。吸血鬼は鼻が利きますから。」
「……この前は完璧別方向に吸血鬼が出たけどな…。」
煙草を吸いながら零がぽつりと呟いた。
次の瞬間、零は架夜の容赦無い肘鉄をみぞおちにくらい、妙な呻き声をもらす。
「この前の吸血鬼は例外です。どう見ても頭トチ狂った感じだったじゃないですか。」
「………そぉですね…」
ぷるぷると小さく痙攣しつつ零は架夜に同意した。
不意に、満月が雲に姿を隠す。
辺りが闇に包まれていく。
「………来ますよ。」
架夜の小さな宣言の後、ソレは姿を表した。
一人の青年。
その青年は架夜たちが潜んでいる建物をただ見つめながらゆっくりと歩いてくる。
建物の中の何かを凝視するかのように、視線をまったく動かさず歩く青年。
身なりも至って普通。
その洞窟のように暗く虚ろな瞳を除けば、だが。
「零、アレを削除します。」
ぽつりと架夜が宣言する。
冷たいアイスブルーの瞳に映るのは一人の青年。
「へぇへぇ。」
少し面倒臭そうに返事をしながら零が腰のホルスターから銃を取り出し、こちらへ歩いてくる青年に銃口を向ける。
青年は未だにただ一点だけを見つめており、零が向けた死への招待状に気付いていなかった。
刹那、闇夜に重い銃声が響く。
足元は草が生えているため、空薬莢が落ちる音が響くことはなかった。
青年は、首をかしげて立っていた。
自分の頭を貫通しようと飛んできた死神を簡単に後ろへ逃がしていた。
「………誰だ?」
闇夜に低い声が響く。
青年が真っすぐに銃弾が飛んできた方向を見据える。
「……悪ぃ…外した。」
青年の問い掛けには答えず、零はとりあえず隣で睨んでくる相方に謝罪した。
「最近命中率低いですよ?」
ちらりと零を睨み、架夜が物陰から姿を表す。
「今晩は、初めまして。」
青年に向かってふんわりと微笑む。
「貴方を削除しに来ました。」
微笑みながら、死の宣告が告げられた。
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