ダリルの悪魔×第一幕

2/4

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
小さな港町ダリル。 平和でのどかなこの町で取れる新鮮な魚介類は他に類を見ない極上の一品。 「……のはずなんだけどなぁ。」 「ま、普通に考えて無理でしょうね。」 ダリル一の海鮮市場の真ん中で黒ずくめの二人組が溜息混じりに呟く。 二人の周りは閑散としており、市場独特の活気はない。 人が二人以外にいないのだから当然ではあるのだが。 「結構楽しみにしてたんだぜ?」 長身で漆黒の長い髪を後ろで一つに結んだ青年、零(ゼロ)が肩を落とす。 その琥珀色の瞳は揺らめき、消沈の意思が見て取れる。 「吸血鬼の被害者が退治屋を含め十人を越えたら、そりゃ寂れるでしょう?」 零の期待を軽く粉々にしたのは架夜(カヤ)。 少年とも青年とも言い難い容姿は女性的で零とは正反対である。 「…でも魚食いt…」 「黙ってください。酸素が無駄に浪費されます。」 髪と同じく冷たいアイスブルーの瞳で射ぬくように微笑まれ零は途中で言葉を失った。 「とにかく、情報が無い限り下手に動けませんね…。」 架夜が零を無視して思案にふける。 どうやら住人は家に閉じこもり外に出るつもりはないようだ。 「…ったく、吸血鬼は夜行性だっつーの…。」 不満そうに零が呟く。 「僕に言わないでください。それに吸血鬼によっては昼間も活動しやがるんですから。」 肩を竦めて架夜が歩きだす。向かう先は海辺にあるという教会。 零も架夜を見失わない程度の距離を保ちついていく。 暫く歩くと小さな教会が見えた。 かなり年季の入ったレンガ造りの建物で、津波に襲われる度に修復したであろう跡が見て取れる。 「すみません。」 こんこんと架夜がドアを叩くが返事は無い。 「留守…じゃねぇな。」 「ええ。気配はありますから。」 架夜がまた先程の行為を繰り返す。 返答は、やはり無い。 「居留守とはいい度胸です。今すぐこの扉を叩き壊してやりましょう。」 至って真面目に架夜が決定をくだした。 「架夜、少し落ち着けって…。」 零にとって冷静沈着な見た目とは裏腹にかなり気の短い架夜を宥めるのは日常茶飯事である。 「待てません。」 架夜がにこりと極上の笑みを零に向ける。 正直女顔の架夜に笑われると弱い。 零が架夜を止めることを一瞬忘れたその時。 小さな音を立て、扉が開いた。 image=37487240.jpgimage=37487262.jpgimage=37487287.jpg
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加