サクラ頂上決戦

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 この日、日本武道館は満員だった。  全国サクラ頂上決戦。 「まずは私からね」  壇上に立ったのは、淡い桃色のドレスの女、ソメイヨシノだった。 「開花宣言、ニュース、花見。春といえば誰か、説明は不要よね」  拍手が起きる。 「短いのよ、その春」  間髪入れずに割って入ったのは、豪奢な八重桜。 「すぐ散る儚さを誇るのもいいけど、長く咲く価値もあるの。満足度が違うわ」 「量で誤魔化してるだけでしょ」  火花が散る。 「そこまでだ」  低い声とともに、舞台中央に男が現れた。片肌脱ぎ、背に桜吹雪。 「この桜、見忘れたとは言わせねえ」  会場がどよめく。遠山の金さんだった。 「正義の象徴としての桜、ってやつもあるんでい」 「いやいや、生活に根付いてるのは俺だろ」  スーツ姿の男がマイクを奪う。 「桜木町。毎日名前を呼ばれてる回数で勝負しようか」 「それは地名だろ!」  笑いと野次。 「食べる桜も忘れないでほしいです」  控えめに前へ出たのは桜餅。 「人は、口に入れて春を感じることもあるんです」 「いや、海も春なんだけど?」  ぴょん、と跳ねる赤い小さな影。 「桜えび。駿河湾の宝石、旬の一瞬の輝き。儚さなら負けないよ?」 「それ、桜じゃなくて海老でしょ!」 「名前に入ってるでしょ!」  さらに、風に揺れるように一人の少女が歩み出る。 「私は秋桜」  柔らかな声だった。 「秋に咲くけど、“桜”って呼ばれてる。そんな私でも、桜と呼ばれて嬉しいんです」  一瞬、場が静まる。  次の瞬間、また議論が噴き出した。 「結局、誰が一番なんだ!」 「春を代表するのは私よ!」 「いや、俺だ!」 「いや、うちだ!」  声が重なり、ぶつかり合う。  そのとき、扉が開けられたのか、武道館の中に桜の花びらが舞い込んできていた。ソメイヨシノの淡い花、八重桜の重なり、外から吹き込んだ風に乗って、無数の桜が入り混じる。  ざわめきが止まった。  外を見ると、武道館の周りも、道も、公園も、すべて桜で埋め尽くされていた。  白、薄桃、濃桃。  淡い一重、豪華な八重、遅咲きの山桜まで形も、咲き方も、散り方も、全部違う。  それでも全部、桜。 「……決める必要、あるか?」  桜木町がぽつりと呟く。  誰も答えなかった。  ソメイヨシノは口を閉じ、八重桜も視線を落とす。金さんは静かに羽織を直し、桜餅はそっと葉を撫でた。桜えびはぴたりと動きを止め、秋桜はただ風に揺れていた。  司会がマイクを握る。 「えー……本大会、優勝は」  刹那の沈黙。 「全員優勝。武道館の中もまるで千本桜」

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