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「おかあさん、これってクローバー?」
お椀に浮かぶ緑色を箸でつまみながら、弟がおかしなことを言い出した。
クローバーも一応は食べられるらしいが、学校の給食に出てきたことはないし、我が家の食卓に並んだこともない。
ましてや、お正月のお雑煮に入れるはずもなかった。お雑煮の緑色といえば……。
「違うわ、ゆうちゃん。これは三つ葉よ」
と、お母さんが当然の正解を口にする。
しかし弟は、ピンとこない顔をして、まだ自分の発言に執着していた。
「じゃあ、やっぱりこれが三つ葉のクローバーなの?」
弟は三つ葉という植物の存在を知らないので、三つ葉と言われたら「三枚の葉」という意味にしか受け取れず、また「三枚の葉」といえば「三枚の葉を持つクローバー」として頭の中で変換されるらしい。
そんな子供の間違った知識を、お父さんが訂正する。
「うむ、クローバーではないな。クローバーはマメ科の植物で、この三つ葉はセリ科だから、大きくかけ離れている」
説得力のある説明だ……と思いながら、お父さんの方を見れば、いつのまにかスマホを手にしていた。それぞれの科名まで知識として覚えていたのではなく、この場で検索して入手した情報らしい。
「なんだ、違うのか……。じゃあ、お雑煮の中には、四つ葉のクローバーは見つからないんだね」
残念そうな弟に、お母さんが問いかける。
「ゆうちゃん、四つ葉のクローバーを探したいの?」
「うん。だって幸運のおまじないなんでしょう?」
「あら、難しいこと知ってるのね」
幸運のシンボルとかラッキーアイテムとして有名な四つ葉のクローバーだが、そんな概念を僕が知ったのは、小学校に上がってからだったと思う。
確かに、まだ幼稚園児には難しい話かもしれないし、そもそも『おまじない』という言い方自体ちょっと似合わない気がした。
「うん。あのね、のりこちゃんがこの間……」
弟の説明によると。
幼稚園で同じクラスの女の子が先月、緑色のブローチを髪につけてきた。ある程度以上の大きさのアクセサリーは禁止だけど、許される程度のミニサイズだ。
それが四つ葉のクローバーを模した髪飾りだったという。その際、彼女と周りの女の子たちが「四つ葉のクローバーは幸運のおまじない」と話していたのを聞いて、弟の印象に残ったらしい。
「そうか。でもクローバーの季節は春から夏にかけてだから、今は探すのも難しいかもしれんな。暖かくなってから、草原や河原などを見て回りなさい」
お父さんが知った顔でアドバイスすると、お母さんが苦笑いを浮かべた。
「お父さん、それは開花時期の話でしょう? 花じゃなくて葉っぱなら、クローバーは多年草だから一応、冬でも見つかる可能性あるけど……」
お父さんの情報は、スマホからのにわか知識に過ぎない。
それに対して、お母さんは子供の頃に、実際に四つ葉のクローバーを探したことがあるという。
経験談に基づく話の方が、より信頼性は高いのだが、
「……でも茎から上は枯れちゃって、根っこだけで冬を越す場合も多いみたい。確かに今探すより、春まで待った方が効率いいでしょうね」
と、方針自体はお父さんと一致するのだった。

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