ムカデとクチゲンカ

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ムカデとクチゲンカ

 だからさー、姉ちゃん言ったよね?  見えないふりしろって、関わるなって。  わからないほうがいいことって、いっぱいあるじゃん。  山なんか、そんなんばっかだよ?    自分だけは大丈夫なんて、甘いからね?  動き回る彼岸花とか、手足が八本ある熊に「こんにちは」って挨拶された話とか、あんたも聞いてたよね?  見えないふり、聞こえないふり、知らないふりを通さないと、寄ってくるんだよ。  え?熊とは違う?  そんなんどうでもいいの!  だいたいさあ、白鳥って水辺にいる鳥だし、水草とか虫とか食べてんだよ?  アオダイショウを丸呑みしたなんて、ありえないからね?逆ならワンチャンあるかもしれないけど、白鳥にそんなポテンシャルないから!  そいつ白鳥じゃないから、絶対。  姉ちゃんにはわかるの!  バードウォッチングも好きだし、白鳥だって見に行ったことあるもん。  四本足のフラミンゴが混ざって、ヒナをいじめてたのも、見たことあるよ?  あの時だって、気づかないふりするの必死だったんだからね?  わかるよ?  冬山なのに、ゴーヤーがたわわに実っていたから、ついつい持って帰りそうになったこともあるよ?  姉ちゃんがゴーヤーチャンプルー好きなの、知ってるよね。  でも、グッと我慢した。  ゴーヤーをもぎ取ったせいで、山から降りられないとか、めっちゃカッコ悪いじゃん。  だからー、知らないって!  妖怪なんて山ほどいるんだよ?  山なだけに。  冗談はさておき、いいから早く戻ってきなって。本当にやばいよ?あんた魅入られてるよ?  大丈夫って言ってる時が、すでにやばいの。  え?歩いていたら、頭の上から落ちてきたって……何が?  はあ?  ばかじゃない?  蛇の死骸なんて、ボトボト落ちてくるもんじゃないからね?  熟れ過ぎた柿じゃあるまいし、ちょっとは頭使いなさいよ。  ご丁寧に頭が潰れてたなんて、喜ぶとこじゃないからね?  はっきり言って、あんたもう「ナワバリ」に踏み入ってるから。  早く引き返しなって、マジで。  踏み込んだらどうなるか、言ったよね?  姉ちゃんのツーリング仲間にも……ってもしもし?もしもし?  ……あいつ、電話切りやがった。  ごめん、そういうわけだからリスケしてもらっていい?  必ず埋め合わせするし、弟連れてきて謝らせるから。  絶対奢らせてやる、サムギョプサルの恨みは怖いからな?  ったく、山登りにはまったはいいけど、はまりすぎなんだよ。あのバカ。    しょうがない、優しい姉ちゃんが迎えに行ってやるか。  車じゃないのかって?  いや、あたしいつもバイクだよ。  ヘルメットもほら、予備を持ち歩いてるし。  ていうか、バイクの免許しか持ってないからさ。  車だと……あとあとめんどくさいんだよね、あいつら「はいってきちゃう」から。  バイクのほうが振り落とせるし、ちょうどいいんだよね。  本当、バカ弟なんだから。  そんな顔しないでよ、あたし、悪運だけは強いんだから。  無事に連れて帰ってきたら連絡する、約束ね。  無事じゃなかったら……そうだな、酒の肴にでもしてよ。  じゃあ、行ってきまーす。  早朝、友人から底抜けに明るいメールが届き、ホッとしたのは言うまでもない。  今日はほんっとごめん!  久しぶりに爆走して、弟を連れて帰りましたー!  あいつったら、ムカデと大声で口喧嘩してたから、首根っこ掴んで下山させたった!  優しい姉に感謝しやがれ!  ってことで、サムギョプサルの予定決めようね!  弟がお詫びに奢るって言ったから、うめえの食いに行こ!    よかったねと返信し、二度寝のために目を閉じる。  ムカデを想像して、ふふっと小さな笑いが漏れた。  

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