10人が本棚に入れています
本棚に追加一
佐原綾は裕福でかつ知的な家庭で育った。母親は弁護士であり、父親は大学教授である。それに加えて、綾はとくに美人の評判の高い母に似て、ある種のタイプの完璧な美貌を備えていた。少し日本的なふくよかさを残しながらも、目がくっきりと大きく、瞳は深い色を湛えている。つややかな黒髪だったのを、大学進学時に深いブラウンに染めてみた。綾の頬の紅色にはその方が映えた。綾はチープなおしゃれをしたことがない。子供のころから仕立ての良いしっかりとした日本製の服を着ていた。今もそうだ。海外の有名ブランドのものは今は必要ないからという両親の一致した判断で身に着けることはないが、見るからに周囲からは一段高いところにいる人間のような、落ち着いた上質の装いが普通だった。
大学は第一志望に合格。推薦入試・AO入試の道は選ばなかったが、大学内の奨学金を授与されるほどには優秀な成績だった。綾は内心はこれで少し安堵した。何から何まで、両親の庇護のもとにいることに、少し飽きてしまっていたから。
高校までは両親に頼らざるを得ず、また恵まれた境遇であることを知るにつけ引け目を感じながら成長してきた。
そのことが、今後の綾の人生に別の彩りを与えるベースになるであろう。
入学式に出席した母親と綾が並ぶと、まるで上流の人々の模範のような光彩を放った。人混みに紛れることを覚悟しても、自然と二人が進む道の前には空間ができた。
何となく周囲の人々が身を引いていく。
これまで綾が享受してきた人生とそれは同じであった。

最初のコメントを投稿しよう!