新学期になってからの初めての登校日、校長先生の話が終わった後、体育館の出入り口付近に新しいクラス割が貼り出された。
人の押し合う中で必死に自分の名前を探したけれど、どこを見ても私の名前がない。
記入漏れなら、先生に聞いた方がいいのかと思っていたら、誰かが私の手を強く引いた。
「〇ちゃんはこっち。私と同じクラス」
そう言いながら、誰かが私を引っ張り、校舎へと誘う。
この子、誰だっけ? …まぁ、私のことを知っているみたいだし、案内してくれるならそれでいいか。
さして気にすることもなく、引きずられるまま相手についていった。けれど、クラスのある階に着いた時、妙な悪寒が私を見舞った。
階段を上がってすぐの位置にある教室。それを無視し、次も無視して相手は進む。
そうやっていくつもの教室を通り過ぎ、ついに見えてきた私達のクラスだという教室。けれどそれを見た瞬間、引きずられるままここまで来た私の足は止まった。
この教室内には絶対に入ってはいけない。何故か強くそう感じ、私は教室の出入り口で立ち止まった。
「どうしたの? 早く入ろうよ」
強く手を引かれるが、私は力を入れてその場に立ち、中に入ることを拒んだ。
「…早く入ろうよ」
私の手を引く相手の声が少し低くなる。その気配の変化に相手を見ると、感情のない視線が私に向いていた。
怒っているとかじれったがっているとかではない、何の感情も読み取れない表情。それを私に向けている相手の顔は、どれだけ見てもやはり見覚えがないものだ。
私のことを知っているふうなのに、私の方はまったく知らない、この子はいったい誰だろう。
戸惑いがますます私を頑なにし、相手の誘いを拒ませる。
出入り口にひたすら立ち尽くす私と相手。そんな私達に、教室内にいる人達の視線が向くのが判った。
全員が同じ顔をしている…そう思った。
よくよく見れば顔立ちなどは違うのだけれど、向けてくる雰囲気がみんな一緒で、今、私の手を引く相手とそっくりだ。
この人達のいる教室には何があっても入れない。その意志は膨れ上がり、私は、用事を思い出したと告げて、掴んでくる手を振りほどいた。
もう一度伸びてくる手をかわし、廊下を一目散に駆け戻る。そうして、校舎の端にある階段付近まで来た時、見知った顔に遭遇した。
「あー、〇ちゃん、いた! 探したよ」
「×ちゃん」
私に声をかけてきたのは、去年一緒のクラスで仲良くしていた×ちゃんだった。
「×ちゃん、何組?」
「二組。今年も一緒だよ。よろしくね」
そう言われ、私は内心で首を傾げた。
今私達がいるすぐ側のクラスが一組。二組はその隣だ。
さっき、あの子は私を廊下の遥か向こうに引っ張っていったけれど、私が二組なら、あんなに遠い所へ行く必要はない。
というか、うちの学年のクラスは五組までで、思い返すと、どうしてあんなに向こうまで行ったのかと不思議になる。
「私、本当に二組?」
「うん。さっき、クラス分けの表を見て来たばかりだから間違いないよ。今年も○ちゃんが一緒で嬉しかったもん」
そう言ってくれる×ちゃんに、私もかなり嬉しくなったけれど、だったらどうしてあの子は私をあんな端まで連れて行ったのかと、それがなおさら気になった。
もう一度、あのクラスまで行ってみようか。
そう思った時に予鈴が鳴り、私は×ちゃんと共に二組の教室に入った。
その後は、短い休み時間もバタバタしていて教室からは出られず、私が教室を出られたのはお昼休みになってからだった。
トイレに行ったついでに、朝向かった教室へと足を向ける。でも、五組から先は、科目別に移動する専門の教室が二人ばかりあるだけで、朝歩いた長すぎる廊下も、並ぶ五組以降の教室もそこには存在していなかった。
朝、私はいったいどこに向かわされたのだろう。私をあそこまで連れて行った子や、教室にいた人達は何ものだったのだろう。
そして、あの時、何も考えずに教室内に入っていたら、私はどうなっていたのだろう。
新年度早々体験してしまった、背筋が寒くなる出来事。
あの時、自分の感覚を信じて本当によかった。そう思いながら、私は、『本当』の自分のクラスに戻った。
新しいクラス…完
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